
筋肉の異常な緊張が原因で、全身が硬直したまま寝たきりになる先天性の難病「AADC欠損症」という病気があります。脳性麻痺やジストニアに似た神経症状が一生続くと思われていましたが、遺伝子治療に顕著な効果があり、苦痛を和らげるだけでなく歩行までもが可能になっています。 スポンサードリンク
AADC欠損症の症状とジストニア
AADC欠損症とは、芳香族Lアミノ酸脱炭素酵素欠損症(Aromatic L-amino acid decarboxylase)という長い病名の直訳であり、先天的に神経伝達物質の代謝に必要な遺伝子たんぱくに異常を持ち、生後1か月後に発病して生涯にわたって寝たきりの生活になります。
幼児期においても精神の遅滞がみられて脳性麻痺の症状が次第に現れるため、過去では単なる脳性麻痺と誤診されることが多く、遺伝子検査が行われるようになって誤診が判明すると遺伝子治療の対象になります。
また、AADC欠損症には神経や筋肉の異常な緊張が原因でこわばりが起きる四肢ジストニアの発作があり、先天性(遺伝性)ジストニアの場合は慢性疾患として難病指定されています。
遺伝的にどの酵素が欠損して影響するかというと、セロトニンやドパミン、カテコラミンなどのホルモン(神経伝達物質)がほとんど作られなくなり、運動、感情、自律神経の神経伝達が正常に行われません。軽度の場合は体が思い通りに動かず協調運動を失い、重度では嚥下困難や嚥下性肺炎を起こして数か月から数年しか生きられません。その間は生涯にわたって寝たきり
AADC欠損症とジストニアの違い
どちらも同じ症状なので、病名を「先天性ジストニア」に統一すれば分かりやすいように思えますが、ジストニアは先天性と後天性では症状が異なります。先天性の場合はどちらも難病指定として別の疾患名がつけられています。
1)AADC欠損症:生命維持に必要な神経伝達物質の代謝・合成ができず、生後から障害を持ち、自発的な運動ができない。
2)遺伝性(先天性)ジストニア:生後早くに発症して、神経症状は下肢から全身に及ぶ。発病しない場合もある。
3)後天的(職業性)ジストニア:同じ運動を反復して繰り返す職業に多くみられ、身体の一部が意思に反した動きをする。脳障害の後遺症や薬の副作用が発症の原因。
反復運動を繰り返す職業に多い職業性ジストニアでは、世界的にも有名な左手のピアニストを初めとする音楽家や著名人は多く、身体の一部の麻痺が残るとはいえ遺伝子の異常が見られないため、神経症状は筋肉注射とリハビリで抑えられます。
主に不随意運動やこわばりのある筋肉にボツリヌス毒素を使う治療(ボトックス治療)に効果があり、不随意運動を軽減させて日常生活への影響を抑えることが可能です。
AADC欠損症の遺伝子治療とは?
AADC欠損症の遺伝子治療はパーキンソン病の遺伝子治療と同じ手段を使います。代謝阻害が次第になくなり、2カ月ほどで歩行が可能になるというものです。(重傷者は約6カ月)。
アデノ随伴ウイルスをベクター(遺伝子の運び屋)として使い、AADC遺伝子を組み込んだものを脳の線条体に注入すると、全身の硬直が無くなり歩行ができるまでに回復しています。
台湾では2010年に遺伝子治療が行われて運動機能が明らかに改善しています。日本では厚労省の認可が下りるまでに時間がかかり、5年後の2015年に認可を受けた後に自治医科大学にて遺伝子治療の臨床研究が始まっています。
臨床研究や治験の段階でも治療を受ける事はできます。医師やセカンドオピニオン、自治医科大学の小児科などで確認してください。

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