宝塚歌劇団の花組トップスターとして知られる明日海りお。退団後の舞台も追いかけるなら、経歴を年順に並べるだけでなく、役の性質を比べると楽しみが増えます。黄泉の帝王トート、永遠を生きるエドガー、そして職場で働くヴァイオレット。同じ俳優が担う人物でも、物語の時間と社会との関係は大きく違います。
この記事では公式の公演資料と所属事務所の出演情報を手がかりに、明日海りおの舞台を「役が置かれた世界」から読み解きます。観劇の感想を代筆するのではなく、映像を見たり公演を選んだりする前に持っておくと面白い問いを整理しました。情報確認日は2026年10月10日です。
花組でのお披露目は『エリザベート』
研音の公式出演履歴には、2003年の月組『花の宝塚風土記』『シニョール ドン・ファン』、2008年『ME AND MY GIRL』新人公演初主演、2012年『ロミオとジュリエット』、2013年花組『戦国BASARA』などが記載されています。2014年8~11月『エリザベート-愛と死の輪舞-』は大劇場お披露目公演として紹介されています。
2014年の宝塚公式制作発表レポートが示すのは、明日海りおが黄泉の帝王トート、蘭乃はながエリザベートを担ったという組み合わせです。ここで面白いのは、トートが歴史上の人物と同じ種類の存在ではないこと。人物紹介を読む段階で、実在の皇妃を描く物語に、死を表す存在が関わるという作品の仕組みを押さえると、題名の「愛と死」の意味を考えやすくなります。
主演者の姿を見て「美しい」と感じることは自然な楽しみですが、それに加えて「この人物は人間の世界をどこから見ているのか」という問いを持つと、衣装や表情だけではない鑑賞の入口ができます。歌を聴く時にも、誰に向けた言葉か、どんな関係を求めているかを作品の中で追うことができます。
なお、同じ『エリザベート』でも宝塚版と外部の公演をそのまま同一視するのは避けたいところです。タイトルが同じでも出演者、構成、演出の条件が異なる場合があります。作品名だけでなく、年、公演団体、会場、役名をセットで確認することが、明日海りおの出演歴を正しく読む基本になります。
『ポーの一族』は、在団中と退団後をつなぐ
2018年花組『ポーの一族』の公式配役表では、エドガー・ポーツネルが明日海りお、メリーベルが仙名彩世、アラン・トワイライトが柚香光です。萩尾望都の漫画を原作とし、小池修一郎が脚本・演出を担う舞台です。
さらに2021年の梅田芸術劇場の公演でも、明日海りおがエドガーを演じています。この版ではアランに千葉雄大が出演しました。宝塚在団中と退団後の舞台で、同じ役名が続いていることが大きな手がかりです。単純に「男役から別の種類の役へ」という一本の線では説明しきれない歩みが、ここにあります。
エドガーを考える時は、外見の若さと、生きてきた時間の長さを分けて見ると作品の世界に入りやすくなります。見た目から想像する年齢と、人物が抱える記憶の量が一致しない。そんな人物を舞台でどう理解するかは、普通の青春物語とは異なる問いです。台詞や歌を知る前にも、原作の性質と人物設定を整理するだけで、何を見たいかが明確になります。
トートとエドガーを並べると、どちらも日常の人間の時間から少し離れた存在として読むことができます。ただし同じ「人間ではない存在」という言葉で括ってしまうと、作品ごとの違いが消えます。物語に登場する理由、他の人物との距離、時間をどう受け止めているか。その違いを探すことこそ、配役から作品を読む面白さです。
同じエドガーでも、共演者と公演の条件は変わる
2018年版と2021年版を比較するなら、まず配役と公演年をそろえた上で、自分が実際に確認できる映像を選びましょう。「明日海りおのエドガー」という言葉だけでは、どちらの版について話しているのか判別できません。公演全編と宣伝の抜粋映像も、区別する必要があります。
例えばアランの配役が変わったという事実からは、エドガーが別の俳優との関係の中で演じられたことが分かります。しかし、それだけで歌唱や演技の具体的な変化を断言することはできません。共演者の声、場面の構成、舞台空間など、比較したい条件を自分で確認して初めて、具体的な感想を持てます。
筆者は、同役の再演を見る際に「前と同じか」を最初の基準にしない方が面白いと考えます。前の公演の記憶は貴重ですが、それを唯一の正解にすると新しい組み合わせの発見が小さくなるからです。役名は同じでも、今回の人物同士がどのように関わるかを見る。比較の出発点をそこに置くと、過去を大切にしながら今の舞台も楽しめます。
梅田芸術劇場の公式チャンネルには、2021年公演の舞台映像があります。以下は終了した公演の紹介映像です。現在の公演やチケット販売の案内ではありません。
映像を見る時は、まずエドガーとアランの名前を押さえ、その上で画面で確認できる関係に注目してみてください。抜粋映像から全編の細部まで推測する必要はありません。気になった場面を一つ覚え、公式の人物紹介に戻るだけでも、配役表の名前が物語の人物としてつながります。
『9 to 5』では、日常の社会の中で役を読む
明日海りおの公式サイトは、2026年9月30日にミュージカル『9 to 5』の再演決定を案内しました。2027年2月23日から3月10日まで日本青年館ホールでの上演が予定され、大阪・愛知公演も案内されています。明日海りおの役はヴァイオレット。2026年10月10日時点の予定であり、日程や販売条件は公演公式の最新案内で確認してください。
この作品は映画『9時から5時まで』を原作に、働く女性たちの反撃をユーモアと音楽で描くミュージカルです。音楽・歌詞はドリー・パートン、脚本はパトリシア・レズニック、日本公演の演出は上田一豪。公式の再演発表と出演情報を読むと、明日海りおが現実の職場の関係を担う人物へと役の領域を広げていることが分かります。
トートやエドガーを知っている人にとって興味深いのは、物語を動かす条件が変わることです。特別な存在の時間や運命を考える作品から、仕事、立場、周囲との協力を考える作品へ。ここで大切なのは「以前の役を捨てた」と読むことではなく、観客が俳優を見るための角度が増えた、と捉えることだと思います。
公演を選ぶなら、宝塚時代と似た雰囲気を求めるのか、異なる人物像を見たいのかを自分に聞いてみるとよいでしょう。作品のジャンルや原作、人物設定を調べることは、好きなスターの出演作をすべて同じ期待で見ないためにも役立ちます。出演者の名前と作品の内容を両方読むことが、満足できる公演選びにつながります。
これからの出演作を見る時の三つの確認
まず確認したいのは、情報の時点です。2021年の公演サイトには当時のチケットや配信の説明が残っています。一方、2027年の予定はこれからの案内です。検索結果で見つけたページを開いたら、公演年と会場を先に確認すると、終了した販売案内を新しい案内と取り違えずに済みます。
次に、同じ作品でも配役が同じとは限りません。再演発表を読んだ時は、過去の共演者の名前をそのまま当てはめず、今回のキャストを確認してください。『9 to 5』の2027年の案内では平野綾、彩みちる、山田健登、飯野めぐみ、別所哲也らが紹介されています。以前の公演の記憶とは別に、今回の組み合わせを楽しむ準備ができます。
最後は、自分の感想と公的な記録の分け方です。何年に何役を演じたかは公式資料で確認できます。声や表情がどう感じられたかは、見た人が持つ感想です。この二つを分けると、好きという気持ちを抑える必要はなく、むしろ「どの場面の何が好きか」を丁寧に語れるようになります。
明日海りおの舞台を配役から読むと、在団と退団という大きな節目を越えて同じ役が続くことも、別の社会や時間を生きる人物へと領域が広がることも見えてきます。トート、エドガー、ヴァイオレットという三つの名前を入口に、次に触れる作品の問いを一つ持ってみてはいかがでしょうか。


