デルタS4のエンジンの説明には、ターボとスーパーチャージャーが両方出てきます。二つ付ければ、単純にパワーが2倍になるのでしょうか。
この車で面白いのは、低い回転からの反応と、高い回転での出力をどうつなぐかという課題です。最大出力の数字だけを眺めるより、コーナーを出て再び加速する場面を考えると、二つの装置の意味が見えてきます。
今回は1985年登場のデルタS4を、競技車と公道仕様のストラダーレを分けながら解説します。ラリー映像から興味を持った方にも、過給機の仕組みからたどれるようにしました。
この記事で分かること
二つの過給機の動力源/低回転と高回転をつなぐ狙い/普通のデルタや公道仕様と混同しない見方。
二つとも空気を押し込む。でも動かし方が違う
過給機は、エンジンへ送り込む空気を圧縮する装置です。エンジンは燃料だけを増やせば際限なく力が出るわけではなく、燃やすための空気も必要になります。
空気を押し込む方法の違いが、ターボと機械式のスーパーチャージャーの違いです。見た目の大きさより、何の力で動いているかを先に見ましょう。
ターボは排気の力で、別の羽根を回す
ターボでは、エンジンから出る排気でタービンを回します。その軸につながるコンプレッサーが、吸気側の空気を圧縮する仕組みです。

タービンとコンプレッサーはつながっていますが、通る気体は別です。排気そのものをシリンダーへ押し戻してパワーを出す、と覚えないことが最初のポイントになります。
排気が増え、ターボの回転が上がるまでには応答の遅れが生じます。どの程度感じるかは、過給機の大きさ、エンジンの状態、制御などによって変わります。
コンプレッサーはエンジンから回す力をもらう
デルタS4が併用したのは、エンジンから機械的に駆動される容積式コンプレッサーです。排気の勢いが十分に育つのを待つ方式とは、動かし方が違います。

この方式なら、低い回転域から空気を送る働きを得やすくなります。その一方で、装置を回す仕事をエンジン自身が負担します。ターボとは長所と負担の出方が違うのですね。
| 方式 | 動かす力 | 今回の注目点 |
|---|---|---|
| ターボ | 排気でタービンを回す | 回転が育った側の過給 |
| 容積式コンプレッサー | エンジンから機械的に駆動 | 低回転からの反応 |
| S4の併用 | 二つの方式を組み合わせる | 働く領域をつなぐ |
表が見切れる場合は、横へスクロールできます。
どちらが無条件に優れているかではなく、求める反応と運転する回転域で考える表です。デルタS4は、片方だけを選ぶのではなく、両方の持ち味を使う道を取りました。

最高出力だけでなく、踏み直したときの反応がほしかった
ラリーでは、長い直線で最高出力を出し続けるだけではありません。減速して曲がり、そこから再び加速する場面が何度もあります。
アクセルを踏んだとき、欲しいところで駆動力を使えることも課題になります。大きな最大出力があっても、それが出る回転域から外れた場面まで同じ力があるとは限りません。
低い回転ではコンプレッサーの働きを生かす
Stellantis Heritageの開発解説は、先代のラリー037が持っていた、低回転での容積式コンプレッサーの利点を残そうとしたことを説明しています。
一方で、ターボによる出力の拡大も取り入れたい。そこでS4では、二つの方式を組み合わせました。単に装置の数を増やす話ではなく、得意な場面をつなごうとする設計です。

同資料では、約3,000回転でターボの圧力が効き始めるころ、バイパスを使って容積式側を外す流れが説明されています。ただし、この説明を全競技仕様の厳密な切替回転数として読むのは避けましょう。
注意
約3,000回転というメーカーの説明は、全仕様に共通する調整値ではありません。運転状態を問わず、その回転で瞬間的に二択へ切り替わるという意味でもありません。
バイパスは、空気の通り道を考える手がかり
バイパスとは、ある部分をう回する通り道です。過給機を二つ付けたとき、常に同じ経路・同じ負担で働かせる必要はありません。

大切なのは、二つの装置が二つのエンジンになるわけではないことです。同じエンジンへ空気を送り込む系統の中で、それぞれの働きを組み合わせています。
また、二つの過給圧をただ足して出力を計算することもできません。空気の温度や流量、圧力の損失、燃料供給、エンジン側の条件まで関わるためです。
空気を押し込んだ先では、温度も考える
過給の話は、圧力だけで終わりません。空気は圧縮されると温度が上がります。同じ圧力でも温度が違えば密度が変わるため、シリンダーへ入る空気の量を圧力の数字だけで判断することはできません。
多くの過給エンジンでは、圧縮した空気を冷やすインタークーラーを使います。過給機メーカーGarrettの基礎解説も、冷却によって吸気の密度を高める働きを説明しています。
これは、水温を下げるラジエーターと同じものという意味ではありません。車の前や後ろに熱交換器があっても、何を冷やし、どの流体が通るかは分けて確認します。
S4の外観写真に見える開口部から、内部の配管をすべて想像して埋めてしまうのは避けたいところです。今回の図は過給機の役割を理解するために使い、未確認の配管図として扱いません。
ブースト計の数字と、最高出力の数字は別
ブーストという言葉は、吸気の過給圧を話題にするときに使われます。出力そのものを示す単位ではないので、「圧力が同じなら馬力も同じ」とはなりません。
排気量や回転数、空気の温度、エンジンへ入る流量、燃焼条件などが違えば、結果も変わります。ツインターボとツインチャージャーを、装置が二つという共通点だけで同一視することもできません。
ツインターボはターボを二つ使う構成を指します。今回のS4で見ているのは、排気で回すターボと、エンジンから機械的に回すコンプレッサーの組合せ。二つの数より、二つの動力源に注目する方が違いをつかめます。
古い競技車の仕様を比べるなら、最大値だけを集めるより、どの競技仕様の、どの回転域を説明している資料かをそろえましょう。調整方法や過給圧を変更するための説明としては使わないでください。
デルタという名前でも、普通のハッチバックの改造版とは違う
デルタS4を、当時の市販デルタへ大きなターボを付けた車として想像すると、構造の話が合わなくなります。S4は競技に向けた別の設計で、外観にデルタの面影を持たせた車です。
エンジンは車体の中央から後ろ寄りへ縦向きに搭載され、駆動は四輪。Stellantis Heritageの資料は、開発名をSE038と記しています。
空気を増やすことと、路面へ力を伝えることは別
エンジンの出力が増えても、それだけでタイヤが路面へ力を伝えきれるとは限りません。滑りやすい路面では、駆動をどう受け持たせるかも大きな課題になります。

S4の「S」は過給、「4」は四輪駆動を表すとメーカーは説明しています。空気を送り込む二つの装置と、力を伝える四輪駆動を、一つの数字の話へ混ぜないようにしたいですね。
競技車の駆動系には前・中央・後の三つのディファレンシャルが使われます。ディファレンシャルは、つながる側の回転差を扱う装置です。各部の働きを知ることと、配分をいつも固定値で表すことは別になります。

外板を開けやすくすることも、競技のための設計
メーカーの開発史には、外側の軽いパネルや開口部を、整備・交換のしやすさにつなげた説明もあります。競技車では、走行中の性能と、次に走れる状態へ戻す作業の両方が必要です。
外観の大きな吸気口や大胆な開き方を見るときも、迫力だけでなく「何のための空間か」「どこへ近づけるか」と眺めると、形の理由を考えやすくなります。
ただし、空気がすべて一つの部品へ向かうとは限りません。車体を冷やす空気と、エンジンで燃やす吸気は区別しておきましょう。
競技車の数字を、ストラダーレへそのまま移さないで
デルタS4には、競技用だけでなく、公道仕様のストラダーレもあります。グループBの認証に必要な生産台数との関係で用意されたモデルです。
1985年の登場、競技車、公道車という三つの条件を分けると、資料に違う出力や重量が載っていても、すぐ矛盾だと考えずに済みます。どの車の、どの時点の数字なのかを先に確認しましょう。

注意
競技車の最高出力や重量を、ストラダーレの仕様として紹介しないでください。競技車自体にも時期や設定の違いがあるため、単一の数字で全車を代表させないようにします。
037、S4、後のデルタを、ひと続きの同一構造にしない
ラリーの歴史では、037からS4、そして後のデルタへと名前が続きます。ただし、後輪駆動か四輪駆動か、エンジンをどこへ置くか、過給機をどう使うかは同じではありません。
歴代の写真を並べるときは、共通のブランド名より、まず車体のどこにエンジンがあり、どの車輪を駆動するかを確認すると理解が進みます。外観が近いことと、構造が同じことは別なのです。
二つの過給機を知ると、映像のどこが面白くなる?
加速の映像を見るとき、最高速の場面だけでなく、曲がり終わって再び加速するところへ目を向けてみてください。開発者が解こうとした「反応」の課題を想像する入口になります。
ただし、映像や音だけで過給機の切替状態や回転数を特定することはできません。音の印象を、そのまま計測データのように扱わないことも大切です。

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