同じ車なのに、左側と右側で前輪から後輪までの距離が違う。ルノー16には、そんな設計上の左右差があります。
メーカーのThe Originals Museumが説明する差は7cm。事故で車体がゆがんだ話ではなく、横向きのトーションバーを使う後輪サスペンションに由来する特徴です。
まっすぐ走る車は、左右の車輪が必ず一直線に並んでいる。そう思っていた方には、少し意外ではありませんか。1965年に登場したルノー16を、車輪の位置、ばねの働き、室内の使い方の順で眺めてみましょう。
この記事で分かること
左右で違うのはどの長さか/コイルではなく棒をねじるばねの仕組み/1965年の基本形と、後年のTS・TXを分けて見るポイント。
7cm違うのは、車幅でもタイヤの大きさでもありません
ホイールベースは、前輪の中心から後輪の中心までの距離です。日本語では軸距とも呼びます。タイヤの外側から測る全長とは区別しておきましょう。
左右のホイールベースが違うというのは、車体を上から見たとき、左右の後輪の前後位置がそろっていないということ。左右のタイヤの間隔を表すトレッドの話ではありません。

ルノー16では、メーカーがこの差を7cmと説明しています。車の名前や写真だけでは気づきにくいのに、足まわりの配置を知ると理由がつながる数字です。
左右差がある設計と、車体の異常は別の話
ここで知っておきたいのは、この設計を現車の不調の説明に使わないことです。正常な設計上の左右差があるからといって、どんなずれでも問題ないとは判断できません。
とくに古い車では、修理や部品交換の履歴が重なっています。タイヤの位置や車体寸法を確認するときは、その車の整備資料に記載された基準に照らして測る必要があります。
注意
7cmの設計上の左右差だけで、現車の健全性は判断できません。この記事の図は、事故歴やサスペンションの損傷を判定するためのものではありません。
棒をねじっても、ばねになるんです
ばねと聞くと、くるくる巻かれたコイルを思い浮かべますよね。トーションバーは、細長い棒のねじれを利用するばねです。トーションは、ねじりを意味します。
一端を固定し、もう一方に回転する力を加えると、棒がわずかにねじれます。力を抜いたとき、弾性の範囲で元へ戻ろうとする性質を車のばねに使います。
車輪の上下動を、棒のねじれへ変える
車輪を支える腕が上下に動くと、その回転を棒へ伝えます。車輪の動きと、ばねが変形する向きは同じでなくてもよいのです。

コイルばねが縮む図と比べると、部品の置き方の違いが見えてきます。コイルは上下方向の収まりを考え、横向きのトーションバーなら車幅方向の長さを使えます。
ただし、棒なら場所を取らないという意味ではありません。必要な長さ、支持する場所、動く腕とのつながりを、車体の中へ収める必要があります。

コイルと比べる前に、何を変形させるかを見る
ばねの硬さは、見た目の太さだけでは決まりません。棒をねじるばねでは、材質や太さ、使う長さも効いてきます。コイルにも線径や巻き方など、別の設計条件があります。
したがって、トーションバーだから必ず柔らかい、あるいは必ず硬い、という覚え方はできません。まずは、車のどこへ、どんな形のばねを収めたのかを読む道具として捉えましょう。
| 方式 | 使う変形 | 配置を見る手がかり |
|---|---|---|
| コイルばね | 巻いたばねの伸縮 | 高さや径 |
| トーションバー | 棒のねじれ | 長さと支持部 |
| 今回のR16後輪 | 横向きの棒のねじれ | 左右の前後位置 |
表が見切れる場合は、横へスクロールできます。
同じ「車体を支えるばね」でも、変形のさせ方と置く向きが違います。方式の名前から乗り心地を決めるより、部品の使う空間を考えると、今回の左右差へ近づけます。
横に置いた2本のばねが、後輪の位置につながる
ルノーの博物館解説は、ルノー16の左右で違うホイールベースを、後輪の横向きトーションバーに結びつけて説明しています。ルノー4と共通する設計上の考え方として紹介される部分です。
左右それぞれのばねを横向きに置くと、その収まりを車幅方向だけでなく前後方向にも考えることになります。後輪を支える腕とばねの配置を左右で前後にずらすことで、車輪の中心位置にも差が生まれます。

左右の後輪を同じ前後位置に置くという条件より、採用したばねの配置を成立させることを選んだ、と理解すると納得しやすいでしょう。奇抜に見せるための左右差ではないのです。
後輪がずれていても、タイヤは前を向ける
車輪の中心がどこにあるかという位置と、タイヤがどちらを向いているかという角度は別です。前後位置がそろっていないだけで、左右が異なる方向を向くことにはなりません。
上から見たタイヤの向きをトー、前後から見た傾きをキャンバーと呼びます。ホイールベースの左右差を、この角度の狂いと一緒にしないようにすると、説明を読み違えにくくなります。

なお、左右差が走りに与える影響を数値で評価するには、具体的な試験条件や測定が必要です。7cmという数字だけで、左右の旋回性能の差まで決めつけることはできません。

車内も、固定した箱にしなかったルノー16
ルノー16が登場したのは1965年のジュネーブ・モーターショー。後ろに独立したトランクを持つ伝統的なセダンとは違い、室内と荷室をひと続きに使えるハッチバックでした。
後席は、滑らせる、折り畳む、取り外すという使い分けができます。メーカーの回顧資料には、荷室を四つの形で使い、容量が346〜1,200dm³になるという説明があります。dm³はリットルと同じ体積の単位です。
荷室容量は、座席の状態と一緒に読む
大きい方の数字だけを見ると、乗員を乗せたままその容量が使えるように思えてしまいます。実際には座席の状態によって使える空間が変わるので、人数と荷物を一緒に考える必要があります。

現在のSUVやミニバンに慣れていると、後席を動かすこと自体は特別に感じないかもしれません。しかし、1960年代のファミリー向け車として、この柔軟性を提案したところにルノー16の面白さがあります。
ばねの左右差と室内の可変性は、同じ一つの機構ではありません。それでも、見慣れた形を守るより、必要な使い方に合わせて配置を選ぶという観点で、二つを並べてみることはできます。
FFなのに、エンジンの前に変速機がある
ルノー16は前輪駆動です。メーカー博物館は、エンジンを前方の車軸より後ろ寄りに置き、その前側へ変速機を配置した構成も説明しています。
前輪駆動といっても、現在よく見かける横置きエンジンの配置だけではありません。駆動する車輪と、エンジンや変速機の置き方は分けて見ると、古い車の図が読みやすくなります。

この配置を、左右のホイールベースが違う直接の原因として説明しないことも大切です。左右差の話は後輪のばね、駆動配置の話は車体前側。それぞれの場所を確かめると混乱を避けられます。
トーションビームと、名前だけで一緒にしないで
現在の車のカタログでは、トーションビーム式という後輪サスペンションも見かけます。似た名前ですが、今回のトーションバーの説明をそのまま当てはめると混乱します。
トーションバーという言葉で注目しているのは、棒のねじれを使うばねです。一方、トーションビーム式で注目するのは、左右の腕をつなぐ横部材を含めた後輪懸架の構成。名前が似ていても、指している対象の範囲が違います。
方式名だけでなく、どの部品が車体を支え、どの部品が車輪を案内するのかを探すと、区別しやすくなります。「トーション」と書いてある車は、みんな左右のホイールベースが違うわけではありません。
また、ルノー16の後輪について知ったことを、別の車種の調整方法へ持ち込まないようにしましょう。同じ棒ばねでも、取り付ける向きや支持方法は車ごとに確かめる内容です。
座席の自由さと、走行中の安全な使い方を分ける
古い紹介資料には、座席を倒して休む使い方など、当時ならではの室内提案が載っています。設計史として面白い一方で、資料にある姿勢を現在の道路で走行中に使ってよいと解釈するものではありません。
人を乗せて走るときは、その車で定められた座席と拘束装置を使います。荷室を広げた配置を紹介する図でも、乗員の場所と荷物の場所を混ぜないことが大切です。
とくに大きな荷物は、収まれば終わりではありません。ブレーキや旋回で動かないか、視界を妨げないかという使い方の条件があります。容積の数字からは分からない確認点ですね。
ルノー16の魅力を今の生活に結びつけるなら、家族で乗る日と荷物を運ぶ日で、同じ車の空間をどう変えられるかを見ると分かりやすいでしょう。最大容量の大きさだけでなく、状態を選べることに注目できます。
TSとTXの数字を、1965年型へ持ち込まないで
ルノー16は1965〜1980年にわたって生産され、途中で仕様が増えました。最初の1,470ccに対し、1968年のTSは1,565cc、1973年登場のTXは1,647ccです。
TXには5速変速機もあり、メーカー博物館は93hp、最高速度175km/hという値を紹介しています。ただし、これはTXの説明。ルノー16という名前の全車が同じ出力・変速機という意味ではありません。
注意
TXの出力や5速変速機を、登場時の全車の装備として扱わないでください。カタログを見るときは年式、仕様、販売地域を合わせます。
中古車の価格や部品の入手性も、時期や市場で変わる内容です。構造の話とは分け、検討する個体について現在の情報と整備履歴を確認したいですね。

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