昔のビートルは空冷。そう聞くと、「走っている風だけで冷やすの?」「後ろにエンジンがあるのに、風はどこから来るの?」と気になるかもしれません。
旧ビートルの冷却には、エンジンで駆動するファンが使われています。走行風だけを待つ仕組みではありません。ただし、ファンがあることと、どんな状態でも過熱しないことは別です。
今回は1972年モデルの北米向けメーカー取扱説明書と、1302カブリオレの公式紹介を手がかりに、風の入口・風を送る部品・熱を逃がす場所を見ていきます。水冷のニュービートルとは分けた話です。
要点
Vベルトが発電機だけでなくファンも回すこと/フィンと空気の通り道の役割/1302でオイルクーラーの置き方が見直された理由
エンジンが後ろでも、冷やす風をつくれる
Vベルトは、発電機だけのためではない
1972年モデルの取扱説明書は、Vベルトが発電機だけでなくエンジン冷却用ファンも駆動することを説明しています。エンジンの回転を使って、冷却に必要な風を送る仕組みがあるのです。

エンジン室で見えるベルトとプーリーは、電気の話だけの部品ではありません。その先に冷却ファンの働きもある、と覚えると、空冷の意味が具体的になります。
このため、停車して車速がゼロになったことと、ファンがまったく回らないことを同じにはできません。エンジンが動いていれば、車の移動とは別にファンを駆動できます。
ベルトの不調は、冷却にも関わります
強制的に風を送る仕組みがあっても、渋滞で必ず過熱しないという保証にはなりません。ベルト、ファン、風の通り道、エンジンの状態などが関わります。古い車なら、改造や整備履歴によっても状態が違います。
「走行風だけではない」と知ることは、放置しても大丈夫と判断するためではありません。冷却に関わる部品がどこにあるのかを知り、異常時に走り続けないための理解につながります。
取扱説明書が発電警告の説明で冷却ファンにも触れるのは、同じベルトが両方を駆動するからです。警告灯が点いても電気だけの問題だと思い込むと、冷却側への影響を見落としてしまいます。

風を送るだけでなく、熱い場所へ届ける
金属のひだ、フィンを見てみよう
空冷エンジンの部品には、薄いひだが並ぶ部分があります。フィンは空気に触れる金属の面積を増やし、熱を渡しやすくする形です。なめらかな塊を一つ置くのとは、空気との接し方が違います。

ここで大切なのは、ファンが回るだけでなく、熱い部品の近くへ風が届くことです。ファンの周りのカバーや風を導く板金も、単なる見栄えのための覆いとは限りません。
ファンハウジング、あるいはシュラウドと呼ばれる囲いは、ファンと風の通り道を考えるときに出てくる言葉です。部品の名前を覚えるなら「風をつくるファン」と「風を導く囲い」を分けてみましょう。
入口のスリットも、飾りとは限らない
1972年モデルの取扱説明書は、リアウインドウの下やエンジンフードのルーバーが、キャブレターと冷却ファンへの空気の入口であることを説明しています。荷物などで塞がないようにする案内もあります。
同じ穴やすき間でも、どこへ空気を通すかで役割が変わります。後ろのボンネットの線を外観の模様として眺めるだけでなく、その先にファンがあると考えると、形の見方も変わります。
ただし、スリットの数や配置は車種・年式で同じではありません。今回のメーカー紹介が扱う1970〜1972年の1302カブリオレでは、エンジンカバーに二群、合計十本の空気スリットが説明されています。全ビートルの共通仕様として数えないでください。
空冷でも、オイルクーラーがある
空気と油は、別の場所で熱を受け渡す
エンジンオイルは潤滑だけでなく、エンジン内部で熱を受け取る役目も持ちます。オイルクーラーは、その油の熱を外へ逃がす熱交換器です。冷却水が流れるラジエーターと同じ部品、というわけではありません。
| 部品 | 受け持つこと |
|---|---|
| ファン | エンジンの回転を使って風を送る |
| 風を導く囲い | 必要な場所へ空気を導く |
| 冷却フィン | 金属から空気へ熱を渡す面積を増やす |
| オイルクーラー | 油が受け取った熱を外へ逃がす |
表は左右にスクロールできます。表の参考:Volkswagen:1972年モデル北米版取扱説明書(第三者保存PDF)
空冷という分類から、油を冷やす装置まで存在しないと考える必要はありません。エンジンの金属から空気へ熱を逃がすことと、油が受け取った熱を空気へ渡すことは、別々に説明できます。
1302では、3番気筒へ行く風との関係が変わった
フォルクスワーゲンの1302 LSカブリオレの紹介は、従来のオイルクーラーが3番気筒へ向かう空気流の中にあり、その位置を見直してエンジン冷却を妨げないようにしたことを説明しています。

図は油を冷やす部品そのものの役割を示しています。1302での移設場所は再現していません。
つまり、冷却器を付けるだけで終わりではありません。油を冷やす部品が、別の場所へ送る風を邪魔しないかも考える必要があります。風の量だけでなく、どこを通るかが設計に関わるのですね。
この改善は、1970〜1972年の1302カブリオレを紹介する資料の説明です。別年式や別仕様もすべて同じ時期に、同じ配置へ変わったと広げて読まないようにしましょう。
当時の取扱説明書は、どの車のもの?
今回参照した取扱説明書は、1971年8月に発行された1972年モデル向けの北米版です。メーカーが制作した資料ですが、現在見られるPDFは第三者が保存・公開しているものです。
資料は主に手動変速機のセダン113を基にし、セダン111やコンバーチブル等で大きく違う点を補足すると説明しています。そのため、図や写真が手元の車と違う場合は、すぐに部品が欠けていると決めず、対象の年式・型式・市場を見ます。
注意
当時の取扱説明書の整備方法や推奨品を、そのまま現在の車へ適用する記事ではありません。警告灯、異音、過熱の疑いがある場合は安全な場所で使用を中止し、対象の空冷VWを扱う専門店へ相談してください。エンジン作動中のベルトやファンには近づかないでください。

後ろ姿を見るとき、空気の入口まで探してみよう
まずは、旧ビートルのエンジンが車体後方にあること。次に、そこへ入る空気の入口と、エンジンに駆動されるファンがあること。さらに、風が届く部品のフィンや、油を冷やす装置を見る。この順番なら、部品をただ暗記せずに追えます。
水冷のニュービートルなど、見た目や名前が近い別世代の車と混ぜないことも大切です。丸い車体を見ただけで空冷と決めず、モデルを確かめてから資料を開きましょう。
「止まると風が来ないから冷えない」という一段階の説明から、風をつくり、導き、熱を受け取る仕組みへ。後ろのエンジン室にも、そのための部品がそろっています。


