紅ゆずるさんの出演作を振り返るとき、「楽しいお芝居」と「切ないお芝居」を別々に選んでいませんか?
2018年の『ANOTHER WORLD』と2019年の『霧深きエルベのほとり』には、恋に真剣な主人公という共通点があります。でも、笑いと本心の関係はかなり違います。
康次郎は、真面目に思いつめる姿が笑いにつながる人。カールは、冗談の奥にある気持ちを探りたくなる人です。演出家の説明と役の背景を並べると、紅さんに託された人物像が見えてきます。
ここから始めよう:「面白い人」という印象だけで終わらせず、何を真剣に受け止め、何を冗談にしているのかを比べてみましょう。
同じトップコンビでも、恋の始まりはこんなに違う!
二作とも星組の紅ゆずるさん、綺咲愛里さんが主演です。『ANOTHER WORLD』は谷正純さんの作・演出。『霧深きエルベのほとり』は菊田一夫さんの作品を、上田久美子さんが潤色・演出しました。
潤色とは、既存の脚本を上演に合わせて整えることです。原作のある再演と、新たに組み立てた落語ミュージカルでは、役を考える出発点も変わります。
まずは名前や職業、物語の入り口をそろえてみました。二作を初めて知る方も、ここを押さえると人物を追いやすくなります。
| 比べるところ | 康次郎 | カール |
|---|---|---|
| 作品・年 | ANOTHER WORLD/2018年 | 霧深きエルベのほとり/2019年 |
| 立場 | 大坂の両替商の若旦那 | 港町にやって来た船乗り |
| 相手 | 菓子屋の娘・お澄 | 名家の令嬢・マルギット |
| 恋の入り口 | 一目惚れから恋患い | ビア祭りの日の出会い |
| 読むときの焦点 | 思いの強さが起こす騒動 | 言葉の軽さと本心の距離 |

康次郎は、おどけるよりも真剣だからおかしい
『ANOTHER WORLD』の康次郎は、大坂の両替商「誉田屋」の若旦那。高津神社でお澄に一目惚れしますが、相手がどこの娘なのかわからないまま恋患いになります。
お澄も同じように恋を思いつめ、二人は「あの世」で相手を探すことになります。現実では簡単に会えなかった恋人が、死後の世界で再会を目指す。題材は大胆ですが、恋そのものはまっすぐです。
谷さんは公式インタビューで、康次郎を純粋で一途な人物として説明しています。笑いの狙いも、本人がふざけることより、真剣さが周りから見ると面白くなる点にあります。
ここを知っておくと、若旦那の慌て方も「笑わせるための動き」だけではなく、本人にとっては大問題なのだと受け止められます。可笑しさと恋の切実さを一緒に追えるのが、この役の入口です。
落語は一つだけじゃない!上方に変えた理由も面白い
作品は「地獄八景亡者戯」「朝友」「死ぬなら今」など、死後の世界を扱う落語を組み合わせています。ひとつの噺を、そのまま舞台に移した作品ではありません。
谷さんの説明では、物語の骨子は江戸落語の「朝友」。康次郎とお澄の人物設定には「崇徳院」も取り入れられています。噺の筋と、人物の性格づけに使う材料を分けて考えると、創作の組み立てがわかります。
さらに舞台を上方へ移した背景には、紅さんと綺咲さんが関西出身であることがあります。土地と言葉を、主演する二人の持ち味に近づけたわけです。
江戸の噺を使っているのに大坂の若旦那が主人公なのは、取り違えではなく演出上の選択です。落語の知識がなくても、「なぜこの土地の話なのか」がわかると台詞への関心が増します。
同じ公演のショーは『Killer Rouge』。紅色をテーマにした齋藤吉正さんの作品です。和物のお芝居とショーが続く公演なので、映像や商品を探すときは二つの作品名を一組として見ると見つけやすくなります。
カールの冗談は、気持ちを隠すためかもしれません
『霧深きエルベのほとり』のカールは、船乗りです。マルギットは父親との確執から家を出た名家の娘。ビア祭りの日に出会う二人には、育った環境の隔たりがあります。
康次郎とお澄は、互いの一途な思いを軸に探し合う二人でした。こちらでは恋の相手だけでなく、家や周囲の人との関係が大きく関わってきます。
上田さんは公式インタビューで、カールは冗談が多く、本心をつかみにくいけれど、実際には真面目で誠実な人物だと説明しています。康次郎とは、真剣さが外に出る方向が違うのです。
軽い言葉を、そのまま軽い気持ちだと読んでよいのか。ここがカールを追うときの面白い問いになります。笑いの場面だけを抜き出すより、誰に対して、どんな状況で話しているのかまで一緒に見たくなります。

36年ぶりの再演は、昔の脚本をそっくり戻すことではなかった
『霧深きエルベのほとり』は1963年に初演された作品です。2019年の上演は、1983年の花組公演以来、36年ぶりでした。宝塚歌劇105周年の幕開けを飾った再演でもあります。
上田さんが明かした方針では、カールとマルギットを中心とする場面は大きく変えず、場面をつなぐ芝居は当時の星組に合わせて新しくするという考えでした。
これは、公演を見比べるときの大事な手がかりです。主役二人の台詞だけで「同じ」と判断せず、周囲の人物がどのように登場し、次の場面へつないでいるかにも目を向けられます。
上演前のインタビューは、演出家が目指した方向を知る資料です。細かな動きが舞台でどう実現したかは、実際の映像や公演資料で確認していくと、方針と結果を混同せずに楽しめます。
2019年の配役ではマルギットが綺咲愛里さん、フロリアンが礼真琴さん。新人公演はカールが極美慎さん、マルギットが水乃ゆりさん、フロリアンが天華えまさんです。本公演と新人公演の名前を分けておくと、映像を探すときの混乱も減らせます。
公式PR映像は、役の背景と一緒に見ると発見が増える!
短いPR映像で、物語全部がわかるわけではありません。だからこそ、先に「この人は誰で、何を望んでいるのか」を知っておくと、同じ場面から拾える情報が増えます。
康次郎なら、お澄を探す恋人であり、大坂の若旦那であること。カールなら、船乗りと名家の娘という二人の立場。この背景を頭の片隅に置いて見るのがおすすめです。
気になった台詞があれば、相手と場面を一組でメモしてみませんか?「面白い台詞だった」から一歩進んで、人物が相手との距離をどう縮めたり、遠ざけたりしているかを追えます。
紅さんは2002年に入団し、2016年に星組トップスターへ就任、2019年に退団しました。今の活動から宝塚時代を知った方も、主演年を先に確認すると、出演歴のどこに位置する作品なのか整理しやすくなります。




私は、笑った場面ほど「この人は本当は何に困っているのかな?」と考えたくなります。康次郎のまっすぐさと、カールの冗談の多さ。二つを並べると、「面白い」の中にもいろいろあるんだな、と役への興味が広がります。