昔のシビックのエンジン図を見ると、ピストンの上に小さな部屋が付いています。そこにも吸気バルブがあり、点火プラグまで入っている。大きな燃焼室があるのに、なぜこんな回り道をしたのでしょう。
1973年12月に登場したシビックCVCCでは、火をつけやすい濃い混合気と、燃料の割合を減らした薄い混合気を、別々の入口から送り込んでいました。小さな部屋で着火させ、その火炎を大きな部屋へ届ける仕組みです。
要点
小さな副燃焼室とバルブの役割/濃い・薄い混合気を分ける理由/1979年の新CVCCと同じ図にしないための見分け方。
薄くすればいい、だけでは火がつきにくかった
空気とガソリンを混ぜたものが混合気です。「濃い」「薄い」は、その中で燃料がどれだけの割合を占めるかを表します。燃料の割合が高い方がリッチ、空気の割合が高い方がリーンです。
排出ガスを減らそうとして混合気を非常に薄くすると、今度は火花を飛ばしても安定して燃えにくくなる。Hondaが向き合ったのは、この両立でした。燃料を少なくするだけで解決する話ではなかったのです。
そこで、点火プラグの近くには火がつきやすい混合気を残すことにしました。エンジン全体を濃い混合気で満たすのではなく、小さな部屋と大きな部屋で分担させます。

火をつける部屋と、ピストンを押す大きな部屋
ピストンの上に広がるのが主燃焼室。そこへ、空気の割合が高い混合気を送り込みます。吸気側の肩口に設けた小さな副燃焼室には、燃料の割合が高い混合気を供給します。
点火プラグがあるのは副燃焼室側です。小さな部屋で燃え始めたガスが、二つの部屋をつなぐトーチノズルから主燃焼室へ噴き出し、薄い混合気へ燃焼を伝えます。

小さなバルブは、濃い混合気の専用入口です
1973年のプレス資料では、主燃焼室用と副燃焼室用の気化器・吸入通路・吸入弁が描き分けられています。気化器は、キャブレターとも呼ばれる、空気と燃料を混ぜて供給する装置です。
二つの入口を使うため、大きな主吸気バルブとは別に、小さな副吸気バルブが必要になります。小さいから予備なのではなく、副燃焼室へ濃い混合気を入れる専用の弁です。

プラグを増やした仕組みとは違います
HondaのED型解説では、主吸気バルブの直径は34mm、副吸気バルブは12mmとされています。これは説明対象となるED型の値で、CVCCという名前を持つ全エンジンに共通の寸法ではありません。
大小の吸気バルブは、クランク軸とタイミングを合わせたカムで開閉します。一方、プラグは混合気に火花を飛ばす部品です。「混合気を入れる弁」と「火をつけるプラグ」を別々に見ると、部品の多い図でも追いやすくなります。
注意
ここで描くのは1973年型の仕組みを読むための説明図です。後年の直噴エンジンや、別方式の副室式エンジンと同じ構造だと扱わないでください。燃料噴射や配管の改造手順を示すものではありません。
点火した火炎は、小さな孔から主燃焼室へ広がる
吸入時には、主燃焼室へ薄い混合気、副燃焼室へ少量の濃い混合気が入ります。ピストンが上がって圧縮が進むと、プラグ付近、副室の出口付近、主燃焼室で、混合気の濃さが異なる状態になります。
最初に火花で着火するのは副室の濃い混合気。そこから出口付近の混合気へ、さらに主室へと燃焼が広がります。図を見るときは、炎の色の派手さよりも、火がつく場所と広がる向きをたどってみてください。

ノズルは、大きく開けばよいわけではありません
二つの部屋をつなぐ孔がトーチノズルです。1973年の資料は、副室と主室の容積比に加え、このノズルの大きさと向きを、構造上の大切な関係として挙げています。
単に小部屋を付ければ成立するのではなく、混合気の供給と火炎の伝わり方まで合わせて設計する必要があったのですね。画像では場所を分かりやすく描いていますが、孔の寸法や正確な燃焼速度は再現していません。

火を強くすればよい、だけでもなかった
Hondaの技術解説は、燃焼温度と排出ガスの関係も説明しています。高温になるほど生じやすいのが窒素酸化物(NOx)。一方、燃え残った燃料は炭化水素(HC)として排出され、燃料が濃く酸素が足りないと一酸化炭素(CO)が増えます。
そこでCVCCが狙ったのは、薄い混合気を安定して燃やしながら、最高温度を抑え、燃え残りの反応に必要な熱を保つことでした。小さな部屋は着火のためですが、エンジン全体で目指したのは、その後の燃焼の進み方まで整えることだったのです。
圧縮の終わりには、プラグ周辺が濃く、副室の出口付近は中間的な濃さ、主室は薄い状態になると説明されています。濃い部屋と薄い部屋をつなぐ出口にも、火を伝える役目があると分かりますね。
小さな部屋にも、開発途中の改良がありました
開発では、炭化水素を減らすために燃焼室を見直し、副室へボウル状のホットカップを追加したことも記録されています。混合気を早く気化させ、点火しやすくする工夫です。
さらに、吸入量は主・副それぞれの気化器の絞り弁で調整し、アイドリングから全負荷まで対応させています。小さな弁を一本足しただけでなく、燃料を混ぜる装置や、副室の熱の使い方まで詰めていた。断面図の細部には、こうした開発の積み重ねもあります。
「CVCCは触媒なし」を、すべての年式へ広げないで
CVCCは排出ガス規制に応える燃焼技術として知られています。ただ、その名前だけで、後のシビックまで同じ装置構成だと考えるのは早計です。
1979年7月の新型シビック資料には、センタートーチ型燃焼室に加えて、排気ガス再循環装置と酸化触媒装置の採用が載っています。CVCC搭載車はすべて触媒を使わない、とは言えません。
| 時期・資料 | 確認できること |
|---|---|
| 1973年シビックCVCC | 主室と副室へ別の濃度の混合気を供給 |
| 1979年新CVCCシステム | センタートーチ型、5か所のトーチ孔、EGRと酸化触媒 |
表は左右にスクロールできます。表の参考:Honda:1979年新CVCCシステムの発表資料
1979年の資料では、副室を主室中央寄りへ近づけ、トーチ孔を5か所にしたと説明しています。1973年の図を見ているのか、後の改良型を見ているのか。そこを分けると、違う解説図が出てきても混乱しにくくなります。

古い図を読むなら、部屋・入口・火花の順に
初代シビックCVCCの構造図では、まず主室と副室を見分け、次にそれぞれの吸気バルブを探します。最後にプラグとトーチノズルをたどれば、混合気が入ってから燃焼が広がるまでを一つにつなげられます。
燃焼室を分けた工夫は、小さなバルブや通路の役割と一緒に見ると面白くなります。次にCVCCのエンジンを見かけたら、出力の数字の前に、その小さな入口を探してみてください。


