「ウイングターボ」と聞くと、回転している羽根の形が変わるように思いませんか。1988年のホンダ・レジェンドが動かしたのは、そこではありません。
タービンの周囲にある4枚の可動ウイングが、固定ウイングとの隙間を変えます。回転する羽根と、その手前で排気の流れを調整する部品。二つを分けると、名前の意味がつかめます。
対象は1988年10月に追加された、日本向け4ドア・レジェンドの2.0L V6 C20A型ターボエンジンです。当時の発表資料と、本田技術研究所の1989年の技術論文を照らして、排気側の仕掛けから見ていきましょう。
要点
中央のタービンは排気で回転。その周囲のウイングは、角度を変えて排気の通り道を調整します。/固定ウイング4枚と可動ウイング4枚。「タービンの羽根が8枚」という意味ではありません。/低回転での応答と、高回転で排気が流れやすいことの両立を狙った仕組みです。
» まずは、回るタービンと空気を送る部品を見分けよう
排気が回す側と、吸気を圧縮する側があります
普通のターボチャージャーには、排気で回るタービンと、エンジンへ入る空気を圧縮するコンプレッサーがあります。二つは同じ軸でつながっています。
排気がタービンを回すと、その回転が軸を通じてコンプレッサーへ伝わります。コンプレッサーは吸い込む空気を圧縮し、エンジンへ送り込みます。排気そのものを吸気へ混ぜて押し込むわけではありません。

上のイラストで、熱い排気が通る側と、新しい空気が通る側を見分けてみてください。二つの羽根車が同じ軸で回るのが、まず押さえたいところです。部品の寸法や配管配置は一般化しています。
レジェンドが変えたのは、排気がタービンへ入るところ
C20Aのウイングターボは、この排気側に可変機構を加えました。タービンの周りを、4枚の固定ウイングと4枚の可動ウイングが取り囲んでいます。
可動ウイングを動かすと、固定ウイングとの隙間、つまり排気が通れる面積が変わります。同じタービンを使いながら、その手前の通り道を調整する考え方です。
注意
4枚+4枚は、タービンを囲むウイングの数です。タービン本体の羽根の枚数や、ターボチャージャーの個数を数えているのではありません。
» 隙間を狭くすると、なぜ低回転から回しやすい?
少ない排気を、速い流れにしてタービンへ当てる
エンジンの回転が低いときは排気の量も少なく、タービンが十分に回り始めるまで時間がかかります。アクセルを踏んでから過給が立ち上がるまでの遅れが、ターボラグです。
そこで可動ウイングを閉じる側へ動かし、排気の通り道を狭くします。ホンダの説明では、固定ウイングとのわずかな隙間で排気の流速を高め、低回転から過給しやすくしています。

図は一組のウイングを拡大した働きの説明です。灰色の部品を固定し、銅色の部品の角度を変えると、間の通り道が狭くなったり広くなったりします。実機の角度・断面形状や開口面積を測った図ではありません。
「全閉」でも、排気を完全には止めません
発表資料には「全閉」という言葉が出てきます。ただし、可動ウイングを閉じる側いっぱいまで動かすという意味です。排気管をふたで完全に塞ぐわけではなく、固定ウイングとの隙間は残っています。
技術論文では、この隙間を単純に小さくすればよいわけではない、と説明しています。狭めすぎると、排気を押し出す側の抵抗も増えるからです。ホンダは出力や実車の応答を見ながら、閉じる位置を決めています。

回転が上がったら、排気の通り道を広げる
高回転では排気量が増えます。低回転向けの狭い通り道のままだと、今度は排気が流れにくくなり、エンジンがガスを押し出すための負担が増えてしまいます。
ウイングターボは運転状況に応じて可動ウイングを開き、過給圧を調整します。低回転で早く過給し、高回転で流れを妨げすぎないようにする。その両方のために、通路の面積を変えているのです。
» 2000rpm以下の数字は、何に到達したとき?
「踏めばいつでも最大トルク」ではありません
1988年のニュースリリースには、インターセプトポイントを2000rpm以下にできたとあります。これはホンダが示した条件で、スロットル全開時に設定過給圧450mmHgへ達するエンジン回転数のことです。
最大トルクの発生回転数とは別の数字です。論文にある最大トルクは24.6kg・m/3500rpm、最高出力は190PS/6000rpm。どちらも当時のC20Aターボのネット値です。
| 数字 | 何を示すか | 条件・単位 |
|---|---|---|
| 2000rpm以下 | 設定過給圧へ達する回転数 | 全開時、設定450mmHg |
| 24.6kg・m/3500rpm | 最大トルク | C20Aターボ、ネット値 |
| 190PS/6000rpm | 最高出力 | C20Aターボ、ネット値 |
表は左右にスクロールできます。表の参考:Honda:1988年10月13日のレジェンド発表
低い回転数で過給が立ち上がることと、いちばん大きなトルクが出る回転数は別。古いカタログで数字がいくつも出てきたら、何を測った数字かを先に確かめると混乱しません。
論文では、最大トルクの90%以上を出す回転域を2000〜6200rpmとしています。ピークの高さだけでなく、幅広い回転で力を出すことを重視した開発だったと読めます。現存する中古車が同じ性能を出すという保証ではありません。
» ウエイストゲートはなくても、吸気側には別の弁がある
排気を逃がす方法から、入口を調整する方法へ
一般的なウエイストゲート付きターボは、過給が大きくなりすぎないよう、排気の一部をタービンを通さない側へ逃がします。ウイングターボはウイングの開度を広く調整できるため、排気側のウエイストゲートを不要にしたと説明されています。
ここで「圧力を逃がす弁が一切ない」と覚えると、別の部品と取り違えます。C20Aの論文には、吸気側の過給圧リリーフバルブも載っています。
アクセルを急に戻したときの弁は、働く場面が違います
過給中にアクセルを急に戻すと、スロットルは閉じてもターボは慣性で回っています。コンプレッサーとスロットルの間の圧力が一時的に上がるため、それを逃がすのが、このリリーフバルブの役目です。
論文では、スロットルを急に閉じたときだけ作動し、加速して過給している間には逃がさない設定だとされています。排気側のウエイストゲートと、吸気側で急閉時に働く弁は、場所も役目も違います。
» 吸気を冷やすインタークーラーは、水冷式でした
ウイングの制御と、圧縮した空気の冷却を分けて見る
ターボで圧縮した空気は温度が上がるため、C20Aターボには水冷式のインタークーラーも使われました。ウイングが排気の通り道を調整する部品なのに対し、こちらは吸気の熱を冷却水へ移す部品です。
論文によると、インタークーラーはV型エンジンの両列の間、インテークマニホールドとの間に収められています。冷却水はエンジン用と別系統で、専用ポンプとサブラジエーターを備えます。

この図は、水冷式インタークーラーの働きを表した一般化した部品イラストです。吸気と冷却水は混ざらず、金属の壁を挟んで熱をやり取りします。C20A純正部品の形状や、実際の配管の取り回しは再現していません。
同じ専用冷却系はターボチャージャーの冷却も担い、専用ポンプによってエンジン停止後も冷却できると論文にあります。「エンジンが水冷だからインタークーラーも同じ水」という仕組みではありません。

» 名前を知っていたレジェンドを、部品から見直す楽しみ
1988年10月13日の発表では、2.0L V6ターボは4ドアのV6 TiとTiエクスクルーシブとして案内され、発売は10月14日でした。同じ表に2.7L車や2ドアハードトップも載っていますが、レジェンド全車がウイングターボという意味ではありません。
昔の車名だけを覚えていた方も、固定ウイングと可動ウイング、タービンとコンプレッサーを見分けると、当時の工夫がずっと具体的に見えてきます。仕組みを知ってから発表資料や論文の図8を眺め直すのも面白いですよ。


