1967年のマツダ・コスモスポーツには、おむすびのような形をしたローターが二つ入っていました。一方、2023年に登場したMX-30 Rotary-EVのロータリーエンジンは一つです。
「昔は二つだったのに、なぜ今は一つ?」。並べてみると気になりますよね。コスモスポーツはエンジンで車を走らせるスポーツカー。MX-30 Rotary-EVでは、エンジンは主に発電を担い、モーターが車輪を駆動します。ローターの数だけでなく、任された仕事が違います。
この記事では、初代コスモスポーツの2ローターを出発点に、ローターと出力軸の役目、二つのローターが持つバランス上の特徴、現代の1ローターでの工夫をたどります。
この記事のポイント
- 1967年発売のコスモスポーツは491cc×2の2ローター。発売当初の最高出力は110PS。
- 2023年のMX-30 Rotary-EVは1ローターのエンジンで発電し、走行はモーターが担う。
- 2ローターの位相を利用する方法と、1ローターでおもりを使う方法は、回転のバランスを考える上で重要。
コスモスポーツの「491cc×2」はどういう意味?
マツダによると、コスモスポーツが公の場に姿を現したのは1963年の東京モーターショー。試験を重ね、1967年5月30日に販売を始めました。初期型の公表値は491cc×2、最高出力110PSです。
「×2」の二つは、二台のエンジンでも、ピストンの数でもありません。二つのローターを持つロータリーエンジンを表しています。ローターを収めた部屋を二組並べ、それぞれが共通の出力軸に力を伝えます。
491ccという数字はエンジン内部の容積変化に関わる数値です。ローターが大きな三角形に見えるからといって、その全体の外形の体積が491ccという意味ではありません。レシプロエンジンの気筒容積と単純に同じ感覚で比較すると、燃焼の回数や排気量の表し方まで混同しやすくなります。
出力も、ここでは発売当初の110PSを扱います。後期型まで含むすべてのコスモスポーツに、そのまま同じ仕様が当てはまるわけではありません。
ローターは、ただその場でくるくる回るの?
ローターを包むのは、内側が繭のような曲線を描くローターハウジングです。ローターとハウジングの間には三つの空間ができ、ローターの動きに合わせて、それぞれの広さが変わります。
空間が広がる場所では混合気を取り込み、狭くなる場所では圧縮。点火によって燃焼が進むと、膨張する力がローターを押し、さらに燃えた後のガスが排出されます。吸入・圧縮・燃焼・排気を、ローターの動きに合わせて行うわけです。
ローターは、自転車の車輪のように固定された中心の周りをそのまま回るわけではありません。中心をずらした軸受けの周りを動き、その動きがエキセントリックシャフトという出力軸に伝わります。図を見るときは、三角形の向きだけでなく、ローターの中心が動くことにも注目してみてください。
レシプロエンジンではピストンが上下に往復し、クランクシャフトがその運動を回転へ変えます。ロータリーはローター自体が回転しながら動くので、そもそもの部品の動き方が違います。どちらも燃焼のエネルギーを車に使える回転へ変える点は共通です。

先端の小さな部品が、開発の壁になった
ローターの三つの頂点には、空間の気密を保つためのアペックスシールがあります。ハウジング内面と接しながら動くため、滑らかに動くことと、密封することの両方が必要です。
マツダが開発で直面した大きな問題が、内壁面に現れる波状の摩耗、チャターマークでした。通称「悪魔の爪痕」。マツダの歴史資料は、高強度のカーボン材にアルミニウムを含浸させたシールの開発によって、この難題を克服したと伝えています。
数字を眺めるだけでは見落としやすいのですが、二つのローターを載せる前提として、一つひとつの作動室がきちんと密閉され、耐久性を持って動く必要がありました。ローターの形だけでは完成しないところに、開発の難しさがあります。
二つのローターは、どう並べて使う?
2ローターでは、二組のローターが一本の出力軸に働きかけます。ここで気になるのは、二つが常に同じ動きを同時にするのか、という点です。
マツダの2023年の技報は、従来の2ローターである13B型を比較対象に、前後ローターの位相を180度ずらすことで、偏心した質量による不釣り合いの慣性力を打ち消せると説明しています。ローターの重心が偏心して動くことで生じる力を、もう一方の動きと組み合わせて考えるのです。
ただし、これは技報が13B型との比較で述べた説明です。1967年の10A型に同じ角度や設計意図をそのまま当てはめた資料は今回確認できていません。「コスモスポーツがそのためだけに2ローターを選んだ」とも断定できません。
「ローターの向きを180度ずらす」という短い言い方だけでは、三角形の絵を単純に半回転させればよいように見えてしまいます。資料が説明しているのは、偏心して動く質量による力の釣り合いです。図を見る際も、表面に見える三角形だけでなく、出力軸の偏心部との関係を追ってみましょう。
では、1ローターはバランスをどう取る?
2023年のMX-30 Rotary-EVに搭載された8C型は、1ローターです。マツダ技報によると、ローターの偏心質量による不釣り合いの慣性力を抑えるため、ローターを挟むように出力軸の前後へ釣り合いおもりを配置します。
二つのローターを組み合わせる方法が使えないため、一つでも回転系全体のバランスを取れるように設計する必要があります。技報では、フロント側のバランスウェイトを備える軸の長さが、13B型の約1.5倍になったとも説明しています。
ここで比べている「1.5倍」は、特定の軸の部分の長さです。エンジン全体が1.5倍になった、重さが1.5倍になった、という意味ではありません。実際、マツダは軸端部などの構造を見直し、発電機やモーターと組み合わせるための配置に収まるよう工夫しています。
同じロータリーでも、車を動かす役目が違う

| 比べる項目 | コスモスポーツ発売当初 | MX-30 Rotary-EV |
|---|---|---|
| 登場 | 1967年 | 2023年 |
| ローター | 2ローター | 1ローター |
| エンジンの役目 | 車の駆動に使う | 発電に使う |
| 車輪を動かす力 | エンジンから伝える | モーターから伝える |
コスモスポーツでは、ロータリーエンジンが走るための動力源です。対してMX-30 Rotary-EVは、電池に充電してモーターで走るプラグインハイブリッド車で、ロータリーエンジンは発電に用いられます。
この違いを抜きに「ローターが一つだから昔の半分の性能」とは言えません。必要とする出力、運転する範囲、車内に置ける空間、電池やモーターとの組み合わせが異なるからです。コスモスポーツの491cc×2と現代の8C型の830ccを比べる場合も、単純に数字だけで優劣を決めるのではなく、車全体の役目を見たいところです。
コスモスポーツまでの道のりを振り返る
マツダがロータリー開発に着手したのは1961年。1963年に試作車が披露され、1964年の東京モーターショーで正式に発表されました。その後も実用化に向けた試験が続きます。
1965年に完成した三次自動車試験場では、高速での耐久試験も重ねられました。マツダの歴史ページによれば、開発当初からのテスト走行距離は70万kmに及びます。そして1967年、ようやく販売開始に至りました。
翌1968年には、ドイツの「マラソン・デ・ラ・ルート」84時間耐久レースに2台で出場。マツダの資料は、一台が総合4位に入ったことを伝えています。長時間のレースで結果を残したことは、完成したばかりのエンジンへの不安に応えるうえでも意味がありました。
画期的な車の歴史は、完成形の美しい写真だけでは見えません。部品の摩耗を抑え、試験を重ね、車として走り続けられる形にしていく。その積み重ねが、二つのローターを持つコスモスポーツにつながっています。
「2ローター」の数字から、車の役割まで見てみよう
1967年のコスモスポーツと2023年のMX-30 Rotary-EVは、同じロータリーでも約半世紀以上の時間が隔たっています。二つを並べると、ローターの数だけでなく、駆動する車と発電を担う車という違いが見えてきます。
もし古いカタログで「491cc×2」を見かけたら、次はローターがどのように力を軸へ伝えているかを。現代の1ローターを見るときは、その一つが発電機やモーターとどう組み合わされているかを。それぞれの役目から読むと、同じ「ロータリー」の中にある工夫が見えてきます。


