R32 GT-Rは4WD。そこまでは知っていても、「前輪と後輪へ、いつも同じ力を送っているの?」と聞かれると、少し迷いませんか。
1989年のGT-Rを知る方にも、最近の動画から興味を持った方にも、今回はアテーサE-TSの働きを図で紹介します。注目するのはエンジンの馬力ではなく、作った力を前後へどう配るかです。
日産の英語資料は、R32の油圧で動かすクラッチが、前後50対50まで駆動力を配分できると説明しています。「50対50まで」と「いつも50対50」は違います。まずは、ここから見ていきましょう。
最初に押さえたいこと
エンジンは力を作り、4WDの制御はその力の配り方を変えます。センサーは車の状態を伝える側、油圧とクラッチは指示を受けて働く側です。部品の仕事を分けると、アテーサという名前の中身が見えてきます。

「4WDだから半分ずつ」とは限らないんですね
4WDは四つの車輪を駆動する仕組みを指す言葉です。ただし、前後の車軸へ力をどう伝えるかは、方式によって違います。
R32 GT-RのアテーサE-TSは、電子制御で前後の駆動力配分を調整する方式です。駆動力は、車を動かすために車輪へ伝える力。トルクは、軸を回そうとする力の大きさを表します。
日産が2025年に公開したR32 EVの英語解説には、オリジナルR32のクラッチが油圧で作動し、前後へ50対50まで配分できると記されています。一定の割合に固定する仕組みとして説明されていません。
数字を読むときは「どんな割合まで配れるか」と「今、その割合になっているか」を分けましょう。配分の範囲を知っても、ある映像の一場面の配分まで確定するわけではありません。
注意
前後50対50という説明を、四つのタイヤに常に25%ずつ伝わるという意味へ置き換えないでください。前後の配分と、それぞれの車軸の左右の働きは別の話です。

280PSはエンジンの数字。4WDの配分率ではありません
日産のヘリテージ資料にある1989年のBNR32は、RB26DETTという直列6気筒のツインターボエンジンを搭載します。排気量は2568cc、最高出力は280PS/6800rpm、最大トルクは353Nm/4400rpmです。
ツインターボは、排気のエネルギーを利用するターボを二つ使う構成です。空気を送り込む側の技術で、前後輪の配分を決める部品ではありません。
エンジンの性能表と4WDの説明を一緒に読むと、どちらも「速さ」に関係するため混ざりがちです。そこで、エンジンから先の力の流れを、もう一段分けて見ます。

センサーとクラッチは、同じ仕事をしていません
1990年に発表された日産の技術者によるSAE論文は、アテーサE-TSの構成を公開要旨で説明しています。挙げられているのは、多板クラッチを含むトランスファー、油圧装置、制御システムです。
トランスファーは、4WDで力を別の駆動経路へ伝える部分です。多板クラッチは、複数の板を使って回転する力の伝達を調整する部品。ここでいうクラッチは、運転席で左足を使うペダルの説明とは分けてください。
要旨には、各車輪の回転速度を知るセンサーと、横方向の加速度を知るセンサーも挙げられています。車輪の速度は、四つを別々に知る情報です。横方向の加速度は、車が曲がるときの横向きの動きに関係する情報です。

センサーは、それ自体が車輪へ大きな力を伝える部品ではありません。状態を知り、その情報を使って制御し、クラッチを働かせる。この順番で読むと、電子制御と機械部品が協力する様子を想像しやすくなります。
多板クラッチの「板」を見てみると、少し身近になります
多板という名前は、複数の板を使うことから来ています。図では、力を伝える側と受け取る側の板が重なる、基本的な考え方を示しました。
板の接触を通じて回転する力を伝えるので、電子制御であっても、力が通る部分には機械の仕事があります。コンピューターだけが、車輪を直接回しているわけではありません。

油圧は、油を介して力を伝える仕組みです。論文が油圧装置と多板クラッチを別々に挙げていることからも、「制御の指示をどう部品の働きへつなぐか」を分けて考える必要があるとわかります。
部品名だけで理解しにくいときは、図の矢印を一度たどってみてください。何を測り、どこで判断し、どの部品を働かせるのか。三つの問いに分けるだけでも、装備の説明が読みやすくなります。
曲がるための4WD。発進だけの話ではなかった
四輪駆動というと、滑りやすい場所から発進するための装備を思い浮かべる方もいるでしょう。アテーサE-TSの論文は、駆動性能に加え、路面の摩擦やエンジン出力が違う条件での旋回性能も目的に挙げています。
旋回性能は、車が曲がるときの働きです。路面の摩擦は、タイヤと路面の間で力を伝える際の条件に関わります。同じ車でも、路面や車に求める力が違えば、配分を考える条件も同じではありません。
1986年の日産の先行研究の公開要旨は、前後の適切な配分が路面の摩擦係数や駆動力によって変わるという分析を紹介しています。これはR32発売前の研究なので、1989年の車の部品や設定をそのまま示す資料としては扱いません。

この研究から1990年の要旨へ目を移すと、単に「四輪へ送ればよい」という話ではなく、配り方と曲がるときの働きを考えている点がつながります。
1990年の要旨は、制御システムがABSと統合されていることも説明します。ABSは、強いブレーキ時の車輪のロックを抑えるための仕組みです。加速時に力を配る話と、減速時に車輪の状態を扱う話が、別々の部品名のまま終わっていないのです。
だからといって、4WDやABSがあればどんな路面でも安全、ということではありません。速度やタイヤの状態まで無関係にする装備ではなく、運転の条件を扱う技術として理解しましょう。

電動R32と比べると、残したかったものが見えてきます
2025年1月10日に日産が紹介したR32 EVは、R32 GT-Rを電動化したプロジェクト車です。1989年の量産車と、2025年に発表された電動化車両は、分けて見ましょう。
オリジナルは一つのエンジンで力を作り、機械を通して前後へ配ります。R32 EVには前後に電気モーターがあり、それぞれのトルクを制御します。同じ4WDでも、力を作る場所と配る方法が変わっています。

| 項目 | 1989年GT-R | R32 EV |
|---|---|---|
| 力を作る部品 | RB26DETT | 前後のモーター |
| 駆動方式 | アテーサE-TS | ツインモーター4WD |
| 車重 | 1430kg | 1797kg |
| 変速機の表示 | 5速MT | 該当なし |
| モーター能力 | 該当なし | 160kW×2/340Nm×2 |
表が見切れる場合は、横へスクロールできます。
ここで面白いのは、日産がオリジナルを超えるハイパワー車を目標にしたのではない、と説明していることです。車重が約370kg増える中で、オリジナルと同じトルクウエイトレシオになるよう出力とトルクを調整しました。
トルクウエイトレシオは、車重とトルクの関係を見る指標です。同じトルクでも、動かす車が重ければ条件が違います。数字を一つそろえるのではなく、重さとの関係を考えたのですね。
モーターの仕様表にある160kW×2、340Nm×2を足して、「常にその最大値で走る」「エンジン車の何倍速い」と判断するのは早計です。部品の最大能力と、車としてどう制御するかは別だからです。
日産の公式映像では、R32 EVの製作過程を紹介しています。1989年の製造記録ではなく、後年の電動化プロジェクトの映像として見てください。
エンジン音まで残す。でも、エンジンが残ったわけではありません
R32 EVは、RB26DETTの音をもとにした音を室内のスピーカーで再現し、パドル操作で変速時の感覚を再現する制御も取り入れました。
それは、オリジナルの5速マニュアル変速機がそのまま働いているという意味ではありません。音や操作で感じるものと、実際に力を伝える部品を区別する必要があります。
外観がよく似ているからこそ、車内の音だけで内部の仕組みを判断しない。この比較は、映像で古い車を見る際にも役立ちます。
注意
2025年の発表では、R32 EV車両や電動化キットを販売する計画はないと説明されています。市販のR32の標準装備や、購入できる改造セットとして紹介しないようにしましょう。
R32を見るなら、馬力の次に「どこへ伝えるか」も
R32 GT-Rの魅力は、RB26DETTの最高出力だけでは語りきれません。状態を知るセンサー、油圧装置、多板クラッチ、それを動かす制御まで見ると、力を使う側の工夫が見えてきます。
仕様書を読むときは、年式と車両の種類を確かめてから、エンジン、変速機、駆動方式を分けてみてください。1989年の量産車、レース仕様、2025年のR32 EVを同じ一台として読まないことが大切です。

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