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シトロエンSMは、なぜ停車中もハンドルが戻る?DIRAVIを三つに分けると面白い!

シトロエンSMの車体とステアリングの働きを紹介するオリジナルイラスト 車

クラシックカーの紹介で「独特なハンドル」と言われても、何がどう違うのか、写真だけでは伝わりにくいですよね。シトロエンSMのDIRAVIは、その代表格かもしれません。

注目したいのは、ハンドルが軽いことだけではありません。停車中でも直進位置へ戻す仕組み、速度に応じて変わる手応え、左右いっぱいに切るまでの回転数。この三つを分けると、SMが目指した運転操作が見えてきます。

先に分かること

DIRAVIは油圧で直進位置への復元を助けるステアリングです。「重くなる」と「たくさん回す」は別の話。市販SMの左右端から端までは2回転で、後のCXやXMとは同じ数字ではありません。

ハンドルの話を、操作する力・直進へ戻す力・回す量の三つに分けた図。
ハンドルの話を、操作する力・直進へ戻す力・回す量の三つに分けた図。

手を離すと戻る。しかも、停車中でも?

DIRAVIは、フランス語のDirection à Rappel asserViを縮めた呼び名です。シトロエンの公式技術解説では、車が止まっていても、ハンドルを離すと車輪を直進位置へ戻すシステムと説明されています。

普通の車で交差点を曲がった後、ハンドルが戻ろうとする感触を知っている方ほど、「止まっていても?」が気になるはずです。SMでは、直進位置へ戻そうとする働き自体を、油圧を使って与えています。

ここで「勝手に目的地へ進む機能」と考えると話が違ってきます。戻る基準は直進位置です。道路の曲がり方を見て次の進路を決める運転支援ではなく、運転者がハンドルを操作するときの仕組みです。

注意

停車中の復元はDIRAVIの特徴を説明するもので、公道で手放し運転を勧めるものではありません。運転中はハンドルを保持し、車両の状態に合った操作が必要です。

切った位置から直進位置へ向かう力を示す概念図。実物内部の断面図ではありません。
切った位置から直進位置へ向かう力を示す概念図。実物内部の断面図ではありません。

「切る」と「戻す」を別々に考えてみよう

曲がるためには、運転者の操作を車輪へ伝える必要があります。一方、曲がった後にどこへ戻ろうとするかは、別の問いです。さらに、その操作にどのくらいの力が要るかも分けて考えられます。

DIRAVIの面白さは、これらをひとまとめにして妥協点を探すだけでなく、それぞれの働きを考え直した点にあります。開発者ポール・マジェスについての公式解説も、ステアリングに求められる機能を独立して扱う発想を紹介しています。

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私は「すごく軽いパワステ」と覚えるより、「戻す力まで設計したハンドル」と捉える方が、SMらしさをつかみやすいと思います。ここを押さえると、次の速度の話もすっとつながります。

速度が上がると、回転数まで変わるのでしょうか?

SMの公式回顧資料には、変速機の端に取り付けたガバナーを使い、速度が上がるにつれてハンドルの手応えを増す仕組みが記されています。ガバナーは、この場合、速度に応じた調整を担う装置のことです。

大切なのは、速度によって変えるのが何か、という点です。ハンドルに感じる抵抗が増えることと、車輪を同じ角度だけ向けるための回転数が増えることは同じではありません。

たとえば、ドアの取っ手が重くなっても、開くまでの移動量が自動的に増えるわけではありませんよね。これは手応えと移動量を区別するためのたとえで、DIRAVI内部にドアのような部品があるという意味ではありません。

速度に応じた手応えの調整と、左右端まで回す量を別の軸で見る図。
速度に応じた手応えの調整と、左右端まで回す量を別の軸で見る図。

公式技術解説では、速度が上がると直進位置へ戻そうとする力を強める考え方も紹介されています。低速で操作しやすく、高速では不用意な操作を抑えたい。その両方に応えようとした設計として読むと分かりやすくなります。

ただし「高速では必ず安心」「現代車より安全」とまで広げることはできません。タイヤ、整備状態、路面、運転者の慣れも関わるからです。特徴を理解することと、個々の車の安全性を保証することは分けておきましょう。

左右いっぱいまで2回転。中央から片側に2回転ではありません

市販SMについて、メーカーはロック・トゥ・ロックを2回転と説明しています。これは左いっぱいから右いっぱいまでの総回転数です。中央から片側へ2回転、という意味ではありません。

左右対称に考えれば、直進位置から片側いっぱいまではおおむね1回転という関係になります。ただし、ここから車輪の角度や最小回転半径までは求められません。ハンドルの回転数と、車体がどれだけ小さく回れるかも別の数値です。

「少ない回転で操作できる」は、持ち替える量の説明にはなります。けれど、それだけを根拠に「狭い駐車場で小回りが利く車」と判断してしまうのは早計です。カタログを見るときにも使える区別ですね。

SMの左端から右端まで2回転という範囲を示す図。車輪の実際の切れ角は示していません。
SMの左端から右端まで2回転という範囲を示す図。車輪の実際の切れ角は示していません。

なぜ、DSのパワステをそのまま使わなかったの?

話を少し戻すと、1955年登場のDS19には、すでに油圧式のパワーステアリングがありました。油圧で操作を助ける発想そのものを、SMが初めて持ち込んだわけではありません。

シトロエンが抱えていたのは、駐車時には軽く動かしたい一方、速い速度では軽すぎる操作を避けたいという課題です。同じ程度の補助をあらゆる場面に当てはめると、どこかで折り合いをつける必要がありました。

公式の開発史では、DSの性能が高まるにつれ、高速での扱いやすさのために補助を控え、結果として低速の取り回しが重くなる事情が説明されています。単に「もっと補助を強くすればよい」では済まなかったのです。

ポール・マジェスが見直したのは、この関係でした。車輪を動かす助けと、運転者に与える手応えを分けて扱えば、低速と高速で求める性格を変えられる。SMの特徴は、DSの油圧技術を土台にしながら、操作の考え方を進めたものとして理解できます。

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昔の車の技術は、珍しい部品の名前だけだと覚えにくいですよね。「駐車では軽く、高速では落ち着いて」という、今も身近な困りごとから読むと、当時の工夫がぐっと近く感じられます。

1958年の試作車は操縦桿!市販SMとは分けて読もう

公式解説には、1958年にDS19を使って試した初期案が登場します。そこでは非常に少ない操作量を想定し、円いハンドルの代わりに航空機のような操縦桿を用いていました。

さらに、その試作については操縦桿から車輪側までの機械的な接続を持たず、油圧で位置を制御したと説明されています。技術史として興味深い一節ですが、読み落とせないのは「試作」の話だということです。

注意

1958年のDS19試作車の仕様を、そのまま市販SMの構造として紹介することはできません。年代、試作か市販か、どの車種かをそろえて読む必要があります。

DSの課題、1958年の試作、市販SMという順序を整理した開発史の図。
DSの課題、1958年の試作、市販SMという順序を整理した開発史の図。

ネットで「DIRAVIは操縦桿だった」「機械的につながっていない」といった説明に出会ったら、まず主語を確かめてみてください。DIRAVIという技術全体の説明なのか、開発途中の特定の試作なのかで意味が変わります。

この違いは、昔の画期的な技術を調べるときによく起きます。試作で大胆に試した案と、量産車に採り入れた仕様は一致するとは限りません。SMの魅力を楽しむためにも、話を大きくするより、どの段階の工夫かを押さえる方が発見につながります。

SM、CX、XM。同じDIRAVIでも数字をひとまとめにしないで

DIRAVIはSMだけで終わらず、後のCXやXMにも使われました。ただし、搭載範囲も操作量も同じではありません。シトロエンの公式技術解説では、左右端間の回転数をSMは2回転、CXは2.5回転、XMは3.5回転としています。

メーカーのDIRAVI技術解説に記載された車種ごとの違い
車種左右端間の回転数搭載範囲の注意
SM2回転市販SMの説明
CX2.5回転仕様で標準・選択の違い
XM3.5回転V6仕様、1996年まで

表が見切れる場合は、横へスクロールできます。

CXでは多くの仕様で標準、ほかでは選択装備という違いがあり、XMではV6仕様に使われ、1996年までと説明されています。「CXならすべて同じ」「XMには全部付く」といった覚え方は避けたいところです。

ここで表の数字が増えても、後の車ほど劣るという順位にはなりません。車種ごとの用途や狙いが違うからです。少ない回転数に驚くことと、それが自分にとって扱いやすいかどうかは、切り分けて楽しめます。

SMは、油圧をハンドルだけに使う車ではありません

1970年のジュネーブで発表されたSMは、シトロエンの技術とマセラティのV6を組み合わせたグランドツアラーです。公式回顧資料は、当初の2,670cc・170hpの仕様を紹介しています。後の燃料噴射仕様などと、数字を混ぜないようにしましょう。

同じ資料には、LHMという作動油を使う中央油圧系が、サスペンション、ブレーキ、ステアリング、ヘッドライトの高さの調整に使われたことも記されています。ハンドルだけに独立した珍しい仕掛けを足した車、と考えると全体像を見落とします。

SMにつながる「S」計画は、当初ル・マン24時間レースを視野に入れたものの、その後DSより上に置く高級車へ方向が変わったと公式回顧資料は伝えています。レース用の操作だけを目指した車、と決めつけず、長距離を快適に移動するGTとして見ると装備のつながりを追いやすくなります。

中央油圧系が支える機能を分けた概念図。実車の配管位置や部品形状を再現したものではありません。
中央油圧系が支える機能を分けた概念図。実車の配管位置や部品形状を再現したものではありません。

それぞれの装置は役割が異なります。共通の油圧系を使うという説明だけで、すべてが同じ動きをするわけではありませんし、一つの部品の不具合から全症状を決めつけることもできません。

中古車を検討する場合は、ここでの仕組みの理解を、そのまま故障診断や整備手順に置き換えないでください。個体の仕様、整備記録、専門家による点検を別に確認する必要があります。

ハンドルの位置調整も、手応えとは別の工夫です

メーカーのSM紹介には、ハンドルの高さと前後方向を調整できることも載っています。これは運転者に対してハンドルを置く位置の調整で、速度に応じて重さを変えるDIRAVIの働きとは別です。

車内写真を見るときには、ハンドルの見た目だけでなく、運転姿勢を合わせる装備にも目を向けてみましょう。「位置を合わせる」「操作を助ける」「直進へ戻す」。似た場所に集まった機能でも、何を変えるための装置かを分ければ、説明を読み違えにくくなります。

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SMを見る楽しみが、「変わったハンドルだね」で終わらなくなると面白いですね。戻す力、速度に応じた手応え、2回転という操作量。次に車内の写真を見るときは、この三つを思い出してみてください。

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