ホンダS800と聞くと、よく回る小さなエンジン、そしてチェーンで後輪を駆動する仕組みを思い浮かべる方もいるでしょう。
でも、すべてのS800がチェーン駆動だったわけではありません。Hondaのモデル史をたどると、発売された1966年のうちに、後輪へ力を届ける方式が変わっています。
この違いを知ると、部品図の見え方も変わります。長い軸はどこへつながるのか。チェーンはエンジンの中にあるのか。後期の左右の車輪は、何でつながっているのか。
今回は、S800の名前にひとまとめにされがちな前期・後期を分け、公開されているHondaの部品資料を手がかりに、後輪まわりを見ていきます。
最初に押さえたいこと
S800のチェーン駆動は初期の仕様/1966年5月にシャフト駆動へ変更/復刻部品図は、その図がどの方式を示すか確かめて読む。
S800は発売した年に、後輪の仕組みが変わっていた
S800の登場は1966年1月。Hondaのモデル史では、同年5月の変更でチェーン駆動を廃止し、一般的なシャフト駆動へ移ったと説明されています。
コレクションホールの紹介にも、初期はチェーン駆動、後期はリジッドアクスルという区別があります。リジッドアクスルは、左右の車輪をつなぐ車軸まわりが一体となった方式です。
この二つの変更は、約2年離れています
- 1966年1月
S800登場。初期はチェーンを使う方式。 - 1966年5月
チェーンを廃止し、シャフト駆動へ。
ここが駆動方式の切り替わりです。 - 1968年5月
S800M登場。上の変更と同時ではありません。
ここで分けておきたいのが、1968年5月に登場したS800Mです。チェーンをやめた変更と、S800Mの登場は同じ出来事ではありません。
| 時期 | 後輪まわりの区別 | 混同しないこと |
|---|---|---|
| 1966年1月の登場時 | 初期のチェーン駆動 | S800全車の仕様ではない |
| 1966年5月の変更 | シャフト駆動へ | S800M登場より前 |
| 1968年5月 | S800M登場 | チェーン廃止と同時ではない |
表が見切れる場合は、横へスクロールできます。
「S800Mになってからチェーンをやめた」と覚えると、変更時期を取り違えます。まず1966年5月の変更を押さえ、その後の改良を別に追うと整理しやすくなります。
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注意
年式の表記だけで、目の前の車の仕様を断定しないでください。現存車の部品交換や改造の有無は、モデル史だけでは分かりません。車台情報や現車の状態まで確かめる必要があります。

当サイト制作
チェーンを選んだ理由は、スペアタイヤの置き場所にあった
チェーンと聞くと、二輪車から発展したHondaらしい仕組み、と受け止めたくなります。ただ、モデル史に記されている理由は、もっと車体の中の事情に結びついています。
開発初期には、スペアタイヤを収める場所を確保するため、デフを前寄りに置く必要がありました。デフは、左右の車輪へ回転を伝える歯車機構です。その位置と車輪の位置の間をつなぐ方法として、チェーンが使われました。
つまり、チェーンだけを取り出して眺めるよりも、「荷物やスペアタイヤも積める小さなスポーツカーにするには、何をどこへ置くか」という問いで読むと、設計の選択が見えてきます。
デフを車輪より前へ置くと、間をつなぐ経路が必要になる
灰色のデフと、黒い後輪の位置を見てください。デフを前寄りに置くと、回転を後輪まで運ぶ経路が残ります。その間をチェーンでつなぐ、という開発時の発想を示しています。
車体の寸法、タイヤの収納方法、ケースの形を再現した図ではありません。前寄りのデフとスペアタイヤの場所をめぐる関係に絞った説明です。
その後のシャフト駆動化について、Hondaはチェーンの音が減った一方で、トランクが少し狭くなったことにも触れています。変更には、良くなった点と引き換えになった点がありました。
静かなほうが上、荷物が多く載るほうが上、と一つの軸で決める話ではありません。小さな車体の中で、走る仕組みと使う場所をどう両立するか。その調整が、駆動方式にも表れています。
エンジンのチェーンと、後輪を回すチェーンは別の場所
ここで扱うのは、後輪を駆動する側のチェーンです。エンジン内部で弁を動かす仕組みと、車輪へ力を届ける仕組みを混ぜないようにしましょう。
「チェーン駆動」という言葉だけを検索すると、違う役割のチェーンの話が混ざります。S800の後輪について調べるなら、リヤーアームやリヤードライブチェンという、部品図に出てくる言葉も手がかりになります。
ケースの中には、回転を渡すチェーンが入っている
Hondaが公開する復刻部品リストには、「リヤーアーム」の項目があります。その中にはリヤードライブチェン、テンショナーアーム、ガイドローラーといった部品名が並んでいます。
図で確認できるのは、ケース、チェーン、両端の回転部、それらを支える細かな部品の組み合わせです。外から見えるケースの形だけで、仕組みが完結しているわけではありません。

イラスト:当サイト制作。参考:Honda 復刻部品リスト B-10(リヤーアーム)
動きで見る:一方を回すと、チェーンがもう一方へ回転を渡す
入れる側右:回転が
伝わる側
見るところは、オレンジのチェーンです。この原理図では左から回転を入れ、右へ渡すものとして示します。一方のスプロケットが回ると、チェーンが循環して、離れたもう一方のスプロケットも回ります。二つの歯車が直接触れて回しているわけではありません。
上の詳細イラストと合わせると、ケースの中で回転を渡す役目が分かります。ここではチェーンで回転を伝える原理だけを示し、S800の歯数・速度比・テンショナーの位置は再現していません。
もう一度見出しを押すと閉じて停止します。端末の「動きを減らす」設定では静止表示になります。
歯のある回転部をスプロケットと呼びます。チェーンがその歯とかみ合い、一方の回転をもう一方へ届けます。自転車の駆動部を思い浮かべると、回転を渡す働きはつかみやすいでしょう。
ただし、S800の部品を自転車と同じ構造だと考えるのは早計です。ケースに収まる部品として、支える部分や張りを扱う部品も含まれています。図では原理を見やすくするため、それらの細部を省いています。
部品名の「テンショナー」から、何が読み取れる?
テンショナーは、チェーンの張りを扱うための機構です。部品表にアームや調整に関わる名称があることからも、輪になったチェーンをただ置くだけの仕組みではないと分かります。
ガイドローラーも別部品として記載されています。部品図を読むときは、目立つチェーンだけでなく、その動きを支える小部品まで目を向けてみてください。

当サイト制作
注意
復刻部品リストは、現在の在庫や互換性を保証する資料ではありません。図に載っているから手元のS800へ取り付けられる、と判断しないでください。ここでは仕組みを読む資料として使っています。
長い軸と、左右へ伸びる軸。どちらもシャフトだけれど仕事が違う
後輪駆動の車では、車体の前後方向へ回転を運ぶ軸と、左右の車輪側へ回転を運ぶ軸を区別すると、つながりが見えます。
前から後ろへ力を運ぶものがプロペラシャフト。左右の車輪へ向かう軸は、アクスルシャフトなどと呼ばれます。同じ「シャフト」でも、車体のどこを結ぶかが違います。

イラスト:当サイト制作。参考:Honda 復刻部品リスト(役割・部品名を確認)
復刻リストの「プロペラシャフト」には、シャフト本体のほかにジョイントやフレキシブルジョイントが掲載されています。長い棒だけでなく、つなぐ部分まで一つの系統として描かれているわけです。
一方、「アクスルハウジング」の項目では、ハウジングとアクスルシャフトが別々に記載されています。外側の入れ物と、中で回転を伝える軸を区別すると、名前だけの暗記になりません。
デフギヤーの項目には、厚さの異なるスラストワッシャーも並んでいます。同じ名前の部品が何行も続くため読み飛ばしがちですが、数字が違えば別の部品として扱われている、と分かる箇所です。
だからといって、表から厚さを一つ選び、自分の車に使えると判断することはできません。必要な寸法や調整値を確かめる整備の話と、構成部品を知る話は分けて読みます。古い資料を楽しむときも、この線引きがあると安心です。
「チェーン式だからシャフトはない」ではない
初期の後輪まわりにチェーンがあっても、車体の前側から回転を運ぶ経路まで、すべてがチェーンになるわけではありません。
Hondaの部品リストにも、プロペラシャフト、デフギヤー、アクスルハウジング、リヤーアームが別項目としてあります。「最後に車輪へどう渡すか」と「前から後ろへどう運ぶか」を分けて見るのがコツです。
後期のライブアクスルは、左右が一体で動く
コレクションホールのS800紹介では、後ろのサスペンションはライブアクスルとコイルスプリングと記載されています。初期のチェーン式を説明した図と、この後期の方式を一枚の図へ混ぜないようにします。
ライブアクスルでは、中央のデフを含む車軸まわりと左右の車輪が一体になっています。車輪へ力を伝える働きに加え、左右が一体の車軸として動く点を見ると、独立した左右の動きとの違いをつかめます。

イラスト:当サイト制作。参考:Honda Collection Hall(後期の方式を確認)
コイルスプリングは、らせん状に巻いたばねです。車体を支え、車輪側の上下の動きに対応します。回転を運ぶシャフトと、車体を支えるばねは、近くにあっても役割が違います。
左右が一体なら、車輪の回転数も同じになる?
ここは少し紛らわしいところです。車軸まわりが一体であることと、左右の車輪が常に同じ回転数で回ることは、別の話です。
カーブでは、外側の車輪のほうが内側より長い距離を進みます。その違いに対応しながら駆動するために、デファレンシャルの働きがあります。デフを製造する柳河精機も、左右のタイヤの回転差を吸収し、滑らかな旋回につなげる機構として説明しています。
外側の車輪が多く回っても、車軸のケースが左右で別々に上下するわけではありません。「回転の違い」と「サスペンションとしての動き」を分けると、リジッドという言葉だけでは想像しにくい部分が解けます。
この区別は、展示車の下を写した写真を読むときにも役立ちます。左右を結ぶ外側のケースが見えているのか、回転を運ぶ内側の軸を部品図で見ているのか。似た場所の説明でも、見ている対象は違います。
ここを分けると、後輪まわりの写真や図を見たときに、「どこが回るか」と「どこが上下するか」を別々に追えます。部品の多い足まわりでも、見る順番を決めると分かりやすくなります。
部品図は、ページの名前より中身を確かめよう
復刻リストの見出しにS800の名前があっても、目の前の図がチェーン式なのか、後期のライブアクスルなのかは、中に描かれた部品と照合する必要があります。
実際にリヤードライブチェンが載る図なら、チェーンを使う後輪の仕組みを示しています。モデル史の変更時期と合わせて読むことで、別の時期の仕様をつなぎ合わせる誤りを防げます。
手順
- モデル史で変更時期を確かめる
- 部品図の項目名を読む
- チェーンや軸の有無を見る
- 車種・時期の違う図を混ぜない
展示車の諸元も同じです。コレクションホールの紹介には791cc、最高出力70PS/8,000rpmなどの数値がありますが、そこに載る重量や足まわりの仕様まで、すべての年式に広げてはいけません。
復刻部品図は構成を読む資料、モデル史は変更を追う資料、展示車の諸元は紹介対象の車を知る資料。それぞれに得意な説明があります。三つを照合すると、一つのページだけでは見落としやすい違いが見つかります。

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