昔のプレリュードを見て、後輪まで曲がる姿に驚いた方もいるのではないでしょうか。今の後輪操舵を知っていると、低速では逆向き、高速では同じ向きに切り替える車だと思いがちです。
ところが、1987年に登場した3代目の機械式4WSは、速度を合図に切り替えていません。後輪の向きを決めるのは、ハンドルをどれだけ回したか。停車中でも、切り始めと大きく切った後では後輪の向きが変わる仕組みでした。
当時の車が好きでも歯車の説明は苦手、という方に向けて、タイヤの向きから床下の軸、後ろのギヤボックスへ順にたどってみましょう。対象は日本で1987年に登場した3代目の4WS仕様です。
この記事で分かること
小さく切ると同じ向き、大きく切ると逆向きになる理由/前後をつなぐセンターシャフトの役目/後年の電子制御4WSと混同しない見方。
停まっていても、後輪は同じ向きから逆向きへ動く
4WSは、前輪に加えて後輪の向きも変える四輪操舵です。四つのタイヤへエンジンの力を送る4WDとは、扱っている仕事が違います。
3代目プレリュードのホンダ4WSは、ハンドルの切れ角に応じる舵角応動型。前後の車輪が同じ方向へ向く状態を同位相、逆の方向へ向く状態を逆位相と呼びます。
たとえば右へ少しハンドルを切ると、前輪も後輪も右を向きます。そこからさらに回すと後輪の角度は小さくなり、一度まっすぐを通って、今度は左へ向いていきます。

小さな操作と大きな操作で後輪の働きを変えるため、車が走り始めるのを待つ必要はありません。ここを押さえると、停車状態で後輪を動かす映像も理解しやすくなります。
「低速」と「大きく切る」は、同じ条件ではありません
車庫入れやUターンでは低速で大きくハンドルを切り、車線変更では小さく切ることが多い。この普段の運転の傾向を利用したのが、機械式の考え方です。
ただし、低速でもハンドルを少ししか回していなければ同位相側です。「低速だから必ず逆向き」と読み替えてしまうと、この車の特徴が見えなくなります。
注意
1987年型の機械式4WSは、車速そのものを入力にして後輪の向きを切り替える方式ではありません。後年のハイパー4WSとは区別して見てください。

床下の長い軸は、後輪を駆動するためではない
前と後ろをつなぐセンターシャフトを見ると、四輪駆動のプロペラシャフトに似て感じるかもしれません。けれど、ホンダ4WSの軸が伝えるのは操舵の動きです。
前側のステアリングギヤボックスはラック&ピニオン式。丸い歯車のピニオンが、棒状の歯を持つラックを左右へ動かし、タイロッドという連結棒を通して前輪を向けます。
そのラックの動きを別の出力側ピニオンで回転に変え、床下のセンターシャフトへ渡します。後方のギヤボックスは、その回転を受けて後輪用のタイロッドを動かします。

ここでは二つの変換が起きています。前側で左右の動きを回転へ、後ろ側で回転を再び左右の動きへ変えること。軸が一本通っている意味は、この受け渡しにあります。
シャフトの長さや取り付け位置は、車体との組み合わせで決まります。機能を表した図から、実車の部品寸法や取り外し方まで分かるわけではありません。
パワーステアリングと4WSを分けると分かりやすい
ハンドルを軽く回せるよう手助けすることと、後輪の向きを決めることは別の仕事です。機械式4WSという呼び名は、後輪操舵の伝達と変化の作り方を指しています。
機械式だから操舵全体に補助装置がない、あるいは車のすべてが電子機器と無関係、という意味にはなりません。どの機能を機械で作ったのかを読むのが、技術資料を楽しむコツです。
後ろのギヤボックスで、動きが折り返す理由
ハンドルを右へ回し続けているのに、後輪は右から左へ向きを変える。単純に前後を棒で直結するだけでは、この動きは作れません。
ホンダが使ったのは、二つのクランク機構を組み合わせるダブルクランク方式でした。クランクは、回転の中心からずれた点を利用して動きを取り出す仕組みです。
歯車が「自分で回る」と「周りを回る」を重ねる
リヤギヤボックスには偏心シャフト、プラネタリーギヤ、固定されたインターナルギヤなどがあります。偏心は、軸の中心がずれていることです。
プラネタリーギヤは、内歯を持つインターナルギヤの中を進みながら自転します。自分自身の回転と、中心の周りを巡る運動が重なり、歯車側の偏心点は単純な円とは違う動きをします。

その動きから、スライダーとガイドが上下の成分を逃がし、左右の成分をストロークロッドへ渡します。最後にタイロッドが後輪の向きを変えます。
難しい部品名を全部覚える必要はありません。回転を受ける部分、二つの運動を重ねる部分、左右の動きだけを取り出す部分。この三つに分けると役割を追えます。
同じ向きは小さく、逆向きは大きくしたかった
同位相と逆位相で、同じ最大角度しか作れない仕組みだと困ります。小さな操作の場面に合わせれば、大きく切ったときの小回り効果が足りなくなるためです。
ダブルクランクでは、偏心量と歯車の比率を選ぶことで後輪の変化を作り込めます。前輪に対して一定割合で後輪も動くのではなく、操作量に応じて割合も向きも変わる点が見どころです。

120度、230度、450度は、どこの角度?
ホンダの技術解説には、後輪の動きが変わる目安が載っています。ここで注意したいのは、ハンドルの角度とタイヤの角度を混ぜないことです。
ハンドルを120度回しても、前輪タイヤが120度回るわけではありません。ギヤを介するため、ハンドルの回転角と車輪の向きには大きな差があります。
| ハンドル角(片側) | 後輪の向き | 後輪の角度 |
|---|---|---|
| 約120度 | 同位相の最大付近 | 約1.5度 |
| 約230度 | まっすぐへ戻る | 0度 |
| 450度 | 逆位相の最大 | 5.3度 |
表が見切れる場合は、横へスクロールできます。
表はハンドルを中立から片側へ回した場合です。同位相が最大になる点、後輪が中立へ戻る点、逆位相が最大になる点を分けています。

前輪は回すほど角度を増していく一方、後輪は同位相で増えた後に減り、逆位相へ移ります。一直線の比例関係を想像するより、後輪がいったん戻る場面を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
230度付近は、スイッチで後輪が急に反対へ跳ねる境目ではありません。機構の動きが続く中で、後輪の切れ角がゼロを通る位置です。静止画を見比べる場合も、途中の動きが連続していることを忘れないでください。
ロック・トゥ・ロックは2.5回転。左右の端から端まで900度なので、中立から片側の端までは450度です。数字を見る際は、全体の回転数と片側の回転数も区別してください。
回転半径の0.5m差を、駐車の余裕と同一視しない
技術解説の比較では、2WSの最小回転半径5.3mに対し、4WSは4.8mです。後輪を逆に向けることで、小さく回り込めることが数値にも表れます。
ただし、最小回転半径は車体の外側が通る範囲そのものではありません。壁や柱との間隔、前後の張り出しまで0.5mずつ余裕が増える、と考えるのは早計です。
注意
最小回転半径と、車体が接触せず通れる幅は別です。狭い場所では車体の前後左右を確認し、数値だけで通過できると判断しないでください。
発明だけでなく、工場で作る方法も変えた
ホンダの開発史を読むと、四輪操舵は後付けの珍しい装備というより、曲がり始めの応答を考え直す研究から生まれたことが分かります。
前輪だけで向きを変える車では、前輪に横向きの力が生まれ、車体の運動が変わる過程を経て後輪も力を受け持ちます。後輪にも向きを与える4WSは、その力の立ち上がり方へ手を入れる技術でした。
研究では、初代アコード二台の前半分をつないだ実験車も使われました。見た目には不思議な車ですが、前後の操舵を試すためには理屈に合う作り方です。

量産時には長いシャフトを生産ラインで扱う問題がありました。アライメント、つまり車輪の向きや取り付け角の調整にも、従来の考え方をそのまま使えませんでした。
後輪を固定の基準として前輪を合わせる方法に対し、四輪が向きを変える車では車体を基準に調整する必要がありました。機構を発明するだけでなく、工場の設備と工程にも対応が求められたのです。
この話を知ると、床下の一本の軸が少し違って見えませんか。後輪へ動きを届ける役目に加え、その部品を安定して組み付ける準備まであって初めて、市販車の装備になります。
中古車や展示車を見るなら、まず世代を確かめよう
プレリュードの4WSを調べると、機械式と電子制御式の話が一緒に出てきます。1991年登場の4代目では、電子制御電動式のハイパー4WSへ進みました。
そちらはセンサーや専用ECU、後輪を動かすアクチュエーターを使う方式です。今回のセンターシャフトとダブルクランクの説明を、そのまま後年型へ当てはめることはできません。

展示や中古車の説明を読むときは、年式、世代、4WSの装備有無を先に確認しましょう。車名だけで搭載を決めつけず、その一台の資料や装備内容へ戻るのが確実です。
古い車の後輪操舵に不具合が疑われる場合も、仕組みの理解と整備作業は別です。センターシャフトの切り離しや調整方法を、概念図から推測して試すことは勧められません。

当時のCMで目を引いた後輪の動きには、運転中によく使う操作量を歯車の性質へ結びつけた工夫が隠れています。速さや馬力とは別のところにも、1980年代のホンダを楽しむ入口がありました。
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