同じ気筒に吸気バルブが二つあるのに、普段はその片側をほとんど開けない。1991年のシビックETiに載ったVTEC-Eは、そんな仕掛けを持つエンジンです。なぜわざわざ吸気の入口を一つに寄せたのでしょうか。答えは、入口の先にある燃焼室です。混合気を勢いよく回して、燃料の割合が少なくても火が広がりやすい状態をつくります。
- 常用回転域では、二つある吸気バルブの片側へ流れを寄せます。
- 吸気を多く必要とする領域では、油圧で二つのロッカーアームをつなぎ、両方のバルブを開きます。
- 発売資料の20.5km/Lは、ETiのMT車を当時の10モードで測った認定値です。

混合気が入る向きをそろえると、燃焼室の中で回り始める
吸気行程ではピストンが下がり、開いた吸気バルブから混合気を吸い込みます。二つある入口のうち片方を主に使うと、片側に流れが集中し、筒の中を回るように流れます。この旋回がスワールです。図を見るときは、バルブの枚数と一緒に、入口を出た流れがシリンダーの壁に沿ってどちらへ進むかを見てみてください。

水を入れた容器に横向きから流れを当てると、水が容器の中を回ります。スワールは、そのように流れの向きがそろって生まれる渦です。エンジンの中では、入口から点火までが短い時間で進みます。Hondaは、常用回転域で混合気の流速を高めて渦をつくり、希薄な混合気でも燃え広がりやすくしました。
渦は強ければ強いほどよいのか
Hondaの当時資料には、スワール比を2.5に設定したとあります。吸気行程一回あたりに渦が回る回数を表した指標です。渦が弱いと希薄な混合気は燃えにくく、逆に強くしすぎると吸気の抵抗が増えます。そこでHondaは吸気ポートの一方にカーブをつけて、流れの向きを整えました。上から見た図でポートの曲がりとバルブの位置を一緒に追うと、入口を絞るだけでなく、入っていく向きまで設計していたことがわかります。
渦と一緒に、燃料を噴くタイミングも詰めた
燃料に対して空気が多い状態を「リーン」と呼びます。点火プラグの火花で燃焼を始めるには、火花が飛ぶ付近に燃え始められる混合気が必要です。燃焼室全体で燃料の割合が少ないとき、この条件をどうつくるかが課題になります。
Hondaの当時資料によれば、開発では、スワールがある状態でいつ燃料を噴けばプラグ付近に点火しやすい混合気が来るかも実験しています。片側のバルブを休ませて流れをつくることと、燃料を噴く時期を合わせること。この二つを続けて読むと、バルブの開き方が燃費につながる道筋が見えてきます。
回転が上がったら、入口を二つに戻す
回転が上がるにつれて、吸気の一回に使える時間は短くなります。より多くの混合気を取り込みたいときに片側だけを使い続けると、吸気の通り道が足りなくなります。そこでVTEC-Eは中・高回転域では吸気バルブを二つとも働かせ、入口の面積を使って混合気を取り込みます。
休ませるのは各気筒に二つある吸気バルブの片側です。気筒そのものは燃焼を続けます。
二つのロッカーアームは、油圧ピストンでつながる
カムは回転する軸についた山です。山の部分が回ってくると、ロッカーアームがその動きをバルブへ伝えます。VTEC-Eでは、吸気側の二つのロッカーアームに、それぞれ対応するカムがあります。見る順番は、上にあるカム、その動きを受けるアーム、最後にバルブです。

常用回転域では、カムの山をそれぞれのアームが受け持つ
二つのロッカーアームが独立して動くと、一方は混合気を取り込むためにしっかり開き、もう一方は休止側のカムに従います。Hondaは後者を休止状態と呼んでいます。図解では、片側の動きを小さく描くと、入口が一方に寄る理由がわかります。片側だけが大きく開くため、燃焼室には向きのそろった流れが入ります。
中・高回転域では、アームを連結して両方を開く
エンジンの制御装置が油圧回路を開き、油圧でピストンが動くと、二つのロッカーアームがつながり、一緒に動けるようになります。すると、主に使っていた側のカムの動きが両方のアームに伝わり、二つの吸気バルブが働きます。油圧が動かしているのはアームを結ぶ部品で、バルブを押し開ける力はカムから届きます。
一枚の断面図では、カムの動きと油圧の働きがどちらも矢印になります。縦に伝わるカムの動きと、横へ動く連結ピストンを分けて追うと、いつ二つのバルブが一緒に開くのかが読み取りやすくなります。
シビックETiの燃費20.5km/Lは、どの車の数字?
Hondaの1991年の発売資料は、シビックETiのマニュアル車について、10モード燃費20.5km/Lを掲げています。記事や旧車情報で燃費を見比べるなら、「ETi」「MT」「10モード」の三つを控えておくと、近い年式の別グレードや現在の測定方式と取り違えにくくなります。数字を見て当時の技術を知りたい場合も、車種の名前だけで探すより、資料の諸元表まで開くと条件がそろいます。
同じ1991年のシビックには、吸気側のバルブタイミングとリフトを切り替えるVTi、吸気・排気の両方を切り替えるDOHC VTECのSiR系もありました。当時のプレス資料では、ETiとVTiに同じE-EG4の型式表記が出ます。EG4の一語から動弁機構を決めるのは難しいため、カタログや中古車情報を読むときはグレードとエンジン欄も合わせて見てください。
| 1991年シビックの資料で見る欄 | 読み分け方 |
|---|---|
| ETi | 1.5L VTEC-E。常用域で吸気の流れを片側に寄せる仕掛け |
| VTi | 1.5L VTEC。吸気側のタイミングとリフトを切り替える仕掛け |
| SiR・SiR II | 1.6L DOHC VTEC。吸気・排気側ともに切り替える仕掛け |
1995年の3ステージVTECへ読み進むとき
1995年のシビックに採用された3ステージVTECでも、低回転域で吸気を片側に寄せ、渦をつくります。そこから中回転域で二つの吸気バルブを働かせ、高回転域ではさらに高回転向けのカムを使う、という三段階です。1991年のVTEC-Eを見たあとなら、1995年の図では、低回転域で行っていた流れの工夫を残しながら、もう一段のカム切り替えを加えたところに注目できます。
「VTEC」と書かれた資料を開いたら、まず何年の車で、何のグレードかを確認。次に、吸気バルブが何本動くかと、どのカムで動くかを順番に見てください。同じ言葉が使われていても、そこで狙った走りや燃焼の違いまで図から読み取れます。

